言われた仕事はやるな!


著者:石黒 不二代  出版社:朝日新書  2008年5月刊  \735(税込)  199P


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刺激的なタイトルです。


私のような中年サラリーマンは、仕事をサボる口実を与えてくれたり、上司の悪口に共鳴してくれるのではないかと期待して本書を手にするかもしれません。
私は違いますよ。私は(笑)。


本書には4つの顔があります。


(1) 自分探しの大切さを示し、読者にも勧める啓蒙書
(2) シリコンバレー精神を紹介した、もう一冊の『ウェブ進化論
(3) 起業に成功したキャリア・ウーマンの物語
(4) 読者の固定観念をうちやぶり、仕事は自ら作り出せ! とけしかける挑発本


この4つの主題がみごとに200ページ足らずの新書におさまっているのは見事というしかありません。
不純で読みはじめた人でも、本書を読めばシャキッと背すじを伸ばしてしまうでしょう。
中身の濃い、お勧めの一冊です。


本書は、石黒さんの36歳夏の回想場面からはじまります。


米国スタンフォード大学のMBA(経営学修士)を卒業した石黒さんは、大いに悩んでいました。
大手ソフトウェア会社からの就職のさそいと、自分でベンチャー企業を興すことのどちらを選ぶか。二つに一つです。


4歳になる息子とのシングルマザー生活ですので、給与の大きい会社への就職は魅力的です。起業した場合は、半分の収入しか得られないでしょう。
カリフォルニアの青い空の下で、人生の棚卸しをした石黒さんは、熟慮の末に起業を選びました。


多くの日本人が、「えっなぜ?」と疑問に思ってしまうような決断を、なぜ下したのでしょう。
それを読者に理解してもらうために、石黒さんは、幼少時からの自分の人生のでき事をふり返り、加えてシリコンバレーで企業家精神と出会った衝撃の大きさを語ります。


石黒さんの自分探しに出てくる思い出は、かなりユニークです。
何でも自分で決めさせる父に、ほとんどしゃべらない母。
ほとんどの読者にとって、自分とまったく違う人生を歩いてきた石黒さん
の人生は、驚きの連続でしょう。


でも、私には、「うん、あったあった。僕にも同じような経験が」と共鳴する箇所がいくつもありました。
余談になりますが、どうも私には、気持ちの上で著者に寄りそおうとするあまり、何にでも思い当たるふしを見つけてしまう性癖があるようです(笑)。何を読んでも自分目線でしか語らないオンライン書評家も多いなかで、これは私の特徴といっていいかもしれません。


よし、これを「強み」になるまで磨いていこう!


……と、勝手に盛り上がっていないで、シリコンバレー精神を示した内容も、ひとつだけ引用しておきましょう。


それは、サン・マイクロシステムズのスコット・マクネリの講演で石黒さんが感銘したひと言です。


はじめた事業が失敗するなんて大したリスクじゃない、と学生に伝えるなかで、「本当のリスクがなんだかわかるか?」と彼は尋ねました。

 「起業して失敗する。それでなくすものなんてしれている。
  わずかばかりの自己資金か? ベンチャーキャピタルを損させる
  ことか? そんなものはリスクじゃないぞ。
  本当のリスクとは……会社が大きくなることだ。
  自分が背負いきれないほどの従業員とその家族。株主を抱えること。
  それが本当のリスクだ」


カッコいい! シリコンバレー精神にしびれますね〜。


こんなエピソードがいくつも本書に登場します。石黒さんが起業を選んだのは、自然の流れといってもいいのでしょう。


起業したあと、社員一人一人が「好き」と思えることを仕事にできる組織、頑張った人が報われる組織作りに心がけ、石黒さんは会社を発展させてきました。現在の会社、代表を務めているネットイヤーグループも、ちょっと変わった組織として紹介しています。


言われた仕事はするな。仕事は自ら作り出せ。


それがこの本の主題です。
与えられた課題よりも素晴らしいものを作り出せるのは自分自身なのですから。


本書を読んだからには、人生の棚卸しをして、自分自身が本当に求める仕事を探すことをお勧めします。
それが見つかれば、自分自身がハッピーに仕事できるし、周りの人にもハッピーを与えることができます。
きっと。