著者:石黒謙吾 出版社:マガジンハウス 2010年10月刊 \1,575(税込) 252P
最近読んだ牛窪恵著『ただトモ夫婦のリアル』の中に、
なにかと決断を避ける草食系は、結婚も離婚も「自分で決めた」とは言いたくない。
と書いてあった。
「草食系」が時代の流れなら、「決断を避けがち」という現代人も増えているのかもしれない。
そんな風潮に待った! をかけるのが、本日とりあげる『2択思考』である。
著者の石黒さんは、ベストセラー『盲導犬クイールの一生』のほか、『ダジャレ・ヌーヴォー』『エア新書』などの知的お遊び系や、『キャンバスに蘇るシベリアの命』のようなシリアスものまで多彩なチャンネルを持つ作家であり、同時に他の著者の本をたくさん世に送り出してきた編集者という顔も持っている。
多くの仕事をこなしてきた作家・編集者ならではの決断力をベースに、石黒さんは「決断」は「2択」の連続であることを喝破した。
石黒さんが本書の冒頭で指摘するのは、私たちは日々、何千もの決断を繰り返して生きている、という事実だ。
何にも決めてないように思うかもしれないが、朝、まず目覚ましが鳴ったときから、「すぐに起きるか、それともあと5分このまま寝ているか」という問題に結論を出している。
何回か「あと5分……」の選択のあとに起きることを決断したあと、次はトイレに行くか、行かずに顔を洗うかを決める。顔を洗うお湯の温度を決めながら、二日酔いだから朝食は少なめにしよう、なんて考えている。朝食をとりながらテレビの時間を確認し、そろそろ着替えなきゃ、そろそろ寒くなってきたからコート着ていこうかな、そういえば靴下は何色にしよう、なんて頭の中でつぶやく。
家を出るまでに、軽く数十回の選択や決断を繰り返す。それが私たちの日常なのだ。
シェイクスピアのハムレットに、「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ」なんていうセリフがあるが、そもそも私たちは、ずっと「生きるほう」を選び続けているから生きている。
ならば、もっと「選ぶ」ことを意識しよう。「選ぶ」ことを意識することで人生を豊かにしよう。
――これが本書の主題である。
なんだか難しそうに聞こえるが、石黒さんは「知的お遊び系」モードで本書を書いているので、笑いながら楽しく読める。ときどき、ツッコミを入れながら読むのに最適の一書である。
石黒さん曰く、
生きるか死ぬか、そして男か女か。
私たちの根本には、2択の要素が隠れている、というのは言いすぎでしょうか。
うん、言いすぎだと思う(笑)
でも、おもしろいから、先に進むことにしよう。
石黒さんのかつての部下のI君は、定食屋にいくたびに何を食べるか迷ってばかりいたそうだ。
たった5、6種類の献立でさえこの調子だから、居酒屋のメニューに行こうものなら、それはもう悲惨。「僕は何でもいいので任せます」と、選ぶことを放棄してしまう。
そんなI君のように、選ぶことが不得意な人におすすめなのが、トーナメント方式で選ぶ=2択の連続で結論を導きだす、という方法。
「カニサラダよりコーンサラダが好みだな」「今日はワカメサラダより豆腐サラダが食べたい気分」などと、トーナメントを進めていく。
数種類のおつまみを注文するのであれば、トーナメントがベスト4とかベスト8になったところで終了。
コツは、いっぺんに決めようとしないで、1対1の比較=2択に落としこんでしまうことだ。
また、石黒さんは2択の筋トレのために、ものごとの「好き」「嫌い」を日ごろから意識することを勧めている。
たとえば、石黒さんは日本のビールメーカーから出る新製品は、必ず1回は買って飲んでみるそうだ。もう一度飲みたくなる銘柄に出会うことは少ないのだが、一度気に入るとずっと同じものを飲み続けるとのこと。
石黒さんの、このアドバイスには心当たりがある。
僕はどんな飲み会でも、最初から最後までビールで通す「ビール党」である。自宅でも週に2、3回缶ビールを飲むのだが、最近、どの銘柄を飲むか迷ってしまった。
2年近くサントリーの発泡酒「ダイエット」を飲んでいたのだが、なんだか甘く感じるようになり、この夏の猛暑に合わせてアサヒの「スーパードライ」に変えた。
ところが、急に涼しくなったせいか、あまり美味しく感じなくなった。
つい10日前の日曜日、カミさんと娘と近所のスーパーに買い物に行ったとき、新しいビールを試すことを思い立つ。
ビール棚に置いてあるビールとビール風発泡酒を衝動的に全種類1本ずつ買い物カゴに入れてみた。レジで1本ずつ打ち出された結果は、1本85円の「スーパーソウナマ」から268円の「ドラフトギネス」まで37種類、合計5,861円。
先週末から、1本ずつ「これは“○”」、「これは“△”かなぁ」と試しはじめた。
37本のみ終わったら、“◎”をつけた何種類かをトーナメント方式で比べていくつもりだ。
優勝したビールは、僕に一番合うビールになっているはず。
楽しみ♪ 楽しみ♪
「2択思考」の筋トレは、楽しんでやらなくっちゃ。
ね! 石黒さん。
石黒さんは、本書の効用を次のように言っている。
物理的な面では、素早く決定することで「有効に使える時間が増える」「会話がうまくなる」「コミュニケーションが円滑になる」。
精神的には、迷いがなくなることにより、「明快な考え方になる」「グルグル思考から抜け出せる」「執着が消える」「悩みとストレスがなくなる」「責任感と覚悟が強まる」「自分を客観的に見ることができる」「他人を冷静に分析できる」などなど。
ちょっと自画自賛すぎるような気もする……(笑)。
でも、僕が本書に惹きつけられたのは事実だ。
僕の本棚には60冊以上の「積ん読」の山ができているから、その日読む本を選ぶのに、いつも頭を悩ませる。
なのに、他の積ん読本をさしおいて10月21日発刊の本書を先に手に取ることになり、クスクス、ワハハと笑いながら最後まで読み通してしまった。
僕の個人的体験ではあるが、何より本書の魅力を語っているのではないだろうか。