裸でも生きる


副題:25歳女性起業家の号泣戦記
著者:山口 絵理子  出版社:講談社  2007年9月刊  \1,470(税込)  263P


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前号で、シリコンバレー精神仕込みの起業家精神を教えてくれる石黒さんの『言われた仕事はやるな!』を紹介しました。
今回とり上げる本の著者も、慶應大学出身でワシントンの国際機関ではたらいた経験をもつ女性起業家です。しかし、この本の著者の山口さんは、同じ「起業家」とはとても思えません。石黒さんと対照的な経歴と行動力をもつ人でした。


石黒さんはMBA出身ということもあり、知的でクールな印象です。社員に向かって「フレームワークに基づいて思考するべきです」と指導していそうです。
かたや山口さんは、あまり考えて行動しているように見えません。いつも体当たりでものごとにぶつかっていき、はじき飛ばされてはまた泣きながら食らいつくことを繰りかえしています。


「スマート」とはほど遠い山口さんの行動を何といえば伝わるかなあ。
「愚直」ではカッコ良すぎるし……。
うん、「ぶきっちょ」が一番近い気がします。


山口さんの中には、小学校の頃から気の強さと猪突猛進と弱虫が同居していました。
男の子にぶたれたらぶち返し、蹴られたら全力で蹴り返す女の子でしたが、とうとういじめに耐えかねて登校拒否になります。むりやりお母さんに連れられて学校へ向かいましたが、学校の門を見ると涙がこぼれてしまい、登校できるようになるまで何日もかかりました。


中学校で非行に走り、そのあと不良を卒業して柔道に打ち込んだときも、1日千本打ち込みするなど、人並みはずれた努力をします。
高校柔道でジュニアオリンピック7位という成績を残し、今度の目標は「社会を変えたい。そのために頭のいい人の行く大学に行きたい」と定めました。
偏差値40の工業高校から、一芸入試でみごと慶應大学入学を勝ち取ります。


入ってみたら、こんどは周りの秀才たちとのレベル差に愕然とし、毎日深夜まで勉強しはじめました。


なんと目まぐるしいこと。
ふつうの人ならどこかで妥協してしまうのに、山口さんは、できるかできないかなんて考えずに、いつも自分を追い立ててしまうタイプなのでした。


せっかく留学したカナダでは、睡眠時間2時間で頑張りつづけ、とうとうダウンしてしまいます。救急車で病院に運ばれ、無理やり帰国させられてからは、こんどは何もする気力もなくなり、一時期「うつ」の診断を受けるくらい無口になりました。


このあとも山口さんは、あっちへゴッツン、こっちへゴツンとぶつかりながら、少しずつ現在の仕事――バングラディシュで高品質バッグを作り、日本で売るビジネスに近づいてきました。


山口さんがもっと器用な生き方をする人なら、ワシントンの国際機関で働いた経験をもとに、アメリカで華やかなキャリアをスタートさせることもできたでしょう。最貧国といわれるバングラディシュの悲惨な状況を見ても、「私には関係ない」と距離を置くこともできたでしょう。


しかし、山口さんは違いました。


大学の同級生が大企業に入って、いい生活をしていることを知らされても、「せっかく慶應大学に入ったのに、すべて水の泡じゃない」と言われても、自分が決めた「途上国でかわいいバッグをつくる」という目標に突き進んでしまうのでした。


どうしてそこまでして……。
読者のだれもが考えてしまう疑問には、「エピローグ」で山口さんが答えてくれています。だからといって、最初に読んではいけませんよ(笑)。


今では、多くのスタッフとバングラディシュの現地工場スタッフに支えられて株式会社マザーハウスを運営している山口さんは、まだ25歳です。


ぶきっちょに見えた生き方が、いちばん経営者への近道だったのかもしれません。