著者:小林 聡美 出版社:幻冬舎 2007年9月刊 \1,470(税込) 206P
著者が何者か知らない方もおられるかもしれないので、簡単に著者を紹介しておきます。
著者の小林聡美さんは1965年生まれの女優です。
最近の出演作品は2006年の映画『かもめ食堂』、2007年の『めがね』、テレビドラマの『神はサイコロを振らない』など。敷島製パンの超熟のCMにも出ています。
映画のキャンペーンで最近テレビに出まくっていた三谷幸喜の妻、といえば思い当たる人もおられるでしょうか。
実は、私は1980年代の終わりにフジテレビで「やっぱり猫が好き」を見て以来の三谷幸喜、小林聡美ファンです。
この番組の脚本家と出演者という立場での出会いが二人のなれそめですが、二人とも、ちょっととぼけた持ち味の“芸風”を持っています。婚約記者会見で取材記者から「腕を組んでください」といわれたとき、二人が別々に腕組みしてみせた芸能ニュースを見たときは、思わず笑ってしまいました。
三谷さんの本、小林さんの本とも読んだことがありますが、小林さんの本で忘れられないのが『マダム小林の優雅な生活』です。
忘れられない理由は、笑えるエピソード満載の優れたエッセイ集だから、ということもありますが、もうひとつ。出張の途中で羽田空港にこの本を忘れてしまったことがあるからです。
買った本なら「あー、無くしちゃった」ですむのですが、おり悪く図書館から借りた本だったので、図書館のラベルが貼ってありました。空港の忘れ物係の人がご親切にも図書館に連絡してくださり、連絡を受けた図書館員が、私に電話で知らせてくれました。
最終的に私から空港の忘れ物係に電話して、着払いで自宅に送ってもらってから図書館になんとか返却したのですが、とても恥ずかしいことに、図書館員とも空港の人とも、本の名前を何度も読み上げなければなりませんでした。
浅沼:忘れた本が届いていると連絡いただいたのですが。
係員:何という題名の本ですか?
浅沼:(一瞬の間)……『マダム小林の優雅な生活』です。
係員:はあ? 『マダム小林の優雅な生活』ですか?
お待ちください。確認します。
(しばらくして)
係員:ありました。題名を確認します。『マダム小林の優雅な生活』
でよろしいですね。
とまあ、こんな具合で、『マダム小林の……』が連呼されるのです。
あ〜恥ずかしい(汗)。
本の内容に入る前に、思い出話が長くなってしまいました。
本文に入りましょう。
本書は2004年から2007年にかけて雑誌に連載したエッセイを集めた本です。
ちょっと人と違う芸風を持っている小林さんなので、ふだんの行動を綴った文章が、少しだけ人とずれていて、クスクス笑ってしまいます。
たとえば、本の題名にもなっている「ワタシは最高にツイている」。
脳の成功スイッチをオンにするために、いつも前向きな態度をとるように勧めている自己啓発本を読んだときのことです。読み終わった本を友人にプレゼントし、友人にも前向きな態度の素晴らしさを教えてあげたところ、友人は携帯メールの冒頭に次のように前向きメッセージを書く工夫をするようになりました。
「ワタシは魅力的なオンナ。モテて困る。ところで……」
小林聡美は、次のようにこのメールを評価しました。
なるほど。『ツイてる○○です』作戦なわけだな。
しかし、メールの内容と少しも関係のない枕詞方式で、
前向きさをアピールするとは、なかなかの強行作戦である。
なーんか、2人ともちょっと違う気がするぞー!!
他にも、小林聡美らしい、ちょっとずれてる感じの文章が続き、それはそれで面白いのですが、今日は、これ以上の内容紹介はやめておきましょう。
というのは、やはりタレント本は著者のファンでなければ良さが分からないところがあります。
こうして読書ノートに取り上げてしまいましたが、小林聡美のファンでない人に対しても尽きせぬ魅力があるかというと、ハタと困ってしまいます。
今日の一冊は、興味のない人に勧めてもだめだろうな〜、と思います。
それを承知で、ファンの人向けに感想を2つだけ書かせていただきます。
その1。
こういっちゃあ何だけど、装丁がムダに美しい本です。
ファンだからこそ言っちゃいますが、ハードカバーにするような格式ばった立派な内容じゃありません。ソフトカバーで十分ですよー。
そういえば、空港に置き忘れた『マダム小林の優雅な生活』もハードカバーだったような気がします。
幻冬舎というと、ギトギトした著者が多いように思うのですが、こんなに軽くてあっさりした著者にも手を広げているのですね。
その2。
ここ3年間のエッセイですので、著者が出演した映画やドラマのロケ地がよく出てきます。
テレビドラマの『神はサイコロを振らない』は東京タワーを効果的に使っていましたね。
『かもめ食堂』、『めがね』は、ともかく癒される映画です。
その『めがね』の舞台となった沖縄の離れ島で、著者はスローペースで生活する経験を綴っています。
読者もいっしょにスローダウンして暮らしてみたくなるかもしれません。