こころと脳の対話


著者:河合 隼雄 茂木 健一郎  出版社:潮出版社  2008年7月刊  \1,260(税込)  203P


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臨床心理学者の河合氏と脳科学者の茂木氏が、それぞれの専門である「こころ」と「脳」についての3回の対談をまとめた一冊です。


対談をはじめる時に「今日は、私が生徒役で」と河合さんがあいさつしたそうですが、話題は河合さんの研究内容が中心になりました。


「研究者」というと客観的データを集めて論文にまとめる学者を連想しますが、河合さんは研究者である前に、こころに病を持つ患者さんの苦しみをとりのぞく臨床医です。
ひたすら患者の話を聞き続けてきた河合さんは、独特の研究観をもっています。


同じ心理療法でも、米国流は分析的に解釈しようとします。たとえば、箱庭療法ひとつとってみても、米国流は箱庭(サンド・プレイ)なのに砂を使いません。自由に形が変えられる要素を排除し、木は何本とか人は何人とか規定して定型化しようとするのです。


河合さんの考えは、従来の研究者らしくありません。
「全体を認識することが大事であって、解釈する必要はない」と言います。クオリア(感覚質)をライフワークとする茂木さんと、対談の冒頭から意気投合するのは、必然のなりゆきでした。


患者さんの話を身の回りの人間関係に当てはめて分かることもたくさんあるようです。


印象に残ったのが、対話しながら自分が心の奥で感じることが、会話の内容以上に意味がある、ということです。
河合さんは、多くの対話経験から、つぎのように判定します。
  「話の内容と、こっちの疲れ度合いの乖離がひどい場合は、
   相手の病状は深い」

ある患者さんの話を聞いていて、どうしても眠くなることが重なったとき、相手に「申し訳ないけどあなたの話を聞くと眠くなる」と伝えたことがありました。
すると、相手は「思い当たります。いちばん大事なことを言ってません」と打ちあけ、そこから「じつは……」がはじまりました。


茂木さんも「ああ、だから、あの人と話すと疲れるんだ」と、思い当たります。
あの自信たっぷりの茂木さんが「河合先生の言葉、宝石のようです」と感嘆してしまいました。こんな茂木健一郎、見たことありません。


このほか、茂木さんを感嘆させながら3回行われた対談をお楽しみください。
内容の詳細は読んでのお楽しみとして、キーワードが「夢」と「関係性」であることだけお伝えしておきましょう。


本書の内容は、2006年に月刊『潮』に掲載されたものをまとめたものです。
対談が2年前に終わっているのに、なぜこんなに出版まで間があいてしまったのでしょうか。せちがらい今の出版界事情では、次々と新刊を繰り出さなければやっていけないはずです。


詳しい事情はわかりません。
河合さんの遺族に配慮したのかもしれませんし、単に編集担当者の怠慢だった(笑)のかもしれません。


読み終わって私が感じたのは、河合さんが治療と研究に取り組んでいる姿が、目に浮かぶように生き生きと感じられたことです。
もし、河合さんが亡くなった直後に出版されていたら、「あぁ、こんなに元気に活躍しておられたのに……」と追悼の思いが先にたちすぎて、河合さんのメッセージが心に届いてこなかったと思います。


「人間を全体で見よ」とい河合さんの治療姿勢は、この時期に読むからこそ胸に響いてくるのでしょう。


河合さんの追悼といえば、茂木さんが今年7月に開催された「河合隼雄先生追悼シンポジウム」で講演した「無意識を耕すために」の録音がクオリア日記7月22日号(こちら)で聴けます。

茂木さんといっしょに、あなたも河合先生と「関係性」を結んでみてはいかがでしょうか。


さて、ちょっとだけ余談です。
ポッドキャスティングつながりでいくと、茂木さんが『赤毛のアン』について講演した内容が、やはりクオリア日記9月10日号に公開されています。


茂木さんも『赤毛のアン』の大ファンだったそうです。私のほかに男性『アン』ファンがいてよかった(笑)。


ポッドキャスティングの情報は、私も、今日知ったばかりです。
明日の早朝ウォーキングのときに聴いてみようと思います。