副題:あらゆることはバランスで成り立っている
著者:高田純次 茂木健一郎 出版社:青山出版社 2010年3月刊 \1,000(税込) 181P
脳科学者としてむつかしい理屈をこねくり回している印象のある茂木健一郎が、テキトーを絵に描いたような高田純次と対談した。
茂木が主導権を握ってやっぱり小難しい内容になるのか、それとも高田がグダグダの世界に茂木を引きずり込んでしまうのか?
――結果は、肩の力を抜いて読める“良い加減”に仕上がっていた。
そもそも、この二人の対談を1冊の本にしてしまおうということ自体が「いい加減」な企画だ。
茂木健一郎の対談は、『フューチャリスト宣言』や『こころと脳の対話』を僕の読書ノートでも取り上げたことがあるが、それぞれ梅田望夫、河合隼雄との対談で、読みごたえのある硬派な内容だった。
それが今回は高田純次だ。しかも、南青山の某所で1回顔合わせしただけ。
雑誌の特集ページにちょうど良さそうな分量を、写真を交えて1冊の単行本に膨らませた。
だから、あまり充実した内容を期待して読みはじめてはいけない。
どうせマジメな内容じゃないんでしょ? と気軽に手にとるくらいがちょうどいい。
ギャグを連発する芸風の高田純次は、今回も「予想を裏切る話題の展開」を何度もくり出していた。
茂木がところどころ高田の芸風を解析して、
「高田さんってセルフプロデュース力に長けているんだと思うんですよ」
とか、
「僕が特にすごいと思うのは言葉のジャンプの仕方なんですよ」
と、深〜い話をしようとする。
そこを高田がはぐらかせて次の話題に持っていくのだが、そのうち、まんざらでもなさそうに喜んでしまい、「ああ! それはそうかもしれない」と受け入れる。
平均すると、たぶん1ページに1箇所以上「(笑)」の登場するリラックスした雰囲気の対談は、安心してすいすい読み進めることができる。
内容は薄そうでも、心地よく先を読めるのは良い本だ。きっと。
楽しい雰囲気ですよ、という説明だけではこの本の良さが伝わらないので、いくつか、よい「裏切り」を紹介させていただこう。
最初に、高田純次が意外にマジメに演劇論を語っているところ。
本当のことを言うと、殺人事件のシーンなんて実際に見たことないですよ。
僕は六三年生きてきて、鉄砲の音を聞いたことはないし、血まみれの死体
も見たことない。(中略)そういう人が多い中で、僕らは舞台やテレビで
ウソをやるんです。自分自身にもウソをつく。そういう感覚があるから、
ウソだったり、見えない部分といったものは、ある程度必要じゃないかな
という感じがあるんですよ。
ダチョウ倶楽部の上島竜兵がおでんを熱がる芸を「ほんとは熱くないんでしょ」
とツッコまれたときの様子を高田純次が再現していた。
そしたら上島は「何言ってるんだ。熱くないのにあちちってやるからリア
クション芸なんじゃないか」って答えてたんですよ。「熱いおでんをあち
ちちだったら、普通だろ」って(笑)。ああ、いいこと言うなあって思い
ましたよ。
ひとつだけ、茂木の言葉も紹介する。
一度負けたら、今度は負けないように、脳はいろんな場所を調整して、
誤差を埋めていく。だからどんどん負けた方がいい。作家の色川武大さん
が「人生は八勝七敗か九勝六敗がいい」と言ったのは、脳から見ると非常
に正しいんです。
最後に、高田純次がかなり真剣に語っていた箇所を引用しておこう。
事業仕分けの蓮舫さんが「スーパーコンピュータはどうして世界一じゃなく
ちゃいけないんですか」と質問していましたよね。あれ、僕は答えられます
よ。「一位を目指さないと二位にはなれないからだよ」って。