著者:和泉育子 出版社:中経出版 2007年8月刊 \1,260(税込) 207P
ストレスや心の病を抱える社員が増えているというのに、職場でのコミュニケーションが減少して、ギスギスしていませんか。「聞く」ことを大切にすれば、仕事も人間関係もうまくいきますよ。と、上手な聞き方を教えてくれる指南本です。
著者の和泉さんは、30数年前、インタビュアーとして働きはじめました。
人から話を聞き出す、という仕事を続けながら、会社の経営者として部下の話もたくさん聞いてきました。
そんな和泉さんの経験した、うまく「聞く」技術、失敗談から導きだしたタブー集が全部で44個そろっています。
コミュニケーションに自信のない人も、ある人も、部下のいる人も、困った上司をもっている人も、きっと参考になる話がいっぱいです。
実際に読んでみると、思い当たるフシがありすぎるので、思わず本を開いたまま、何度も考えこんでしまいます。自分の経験した会話を反省しながら読むので、読みおわるまでにずいぶん時間がかかりました。
約200ページの、そう厚くない本なんですけど。
身につまされて印象に残るのは、やはり悪い例、失敗談のほうですね。
たとえば、「部下には少し距離を置いてアプローチする」というお話。休日も休まずにはたらいている上司が、「休みに何をしているの?」と部下に聞いてはいけないそうです。尋ねるほうは雑談のつもりでも、質問された側からすると、「休日出勤させらるかもしれない」と警戒してうというのです。
これは、知り合ったばかりの異性に休日の過ごし方を尋ねるのと同じで、相手はデートに誘っているように受け取るかもしれません。迷惑に思われると、お互いのことをよく知る前に警戒されてますので、ご注意、ご注意。
うっとうしい上司の例ばかりでなく、ちょっとした会話の潤滑油に使えそうな良い話もたくさん載っています。
ひとつだけ「前向きの気持ちを乗せて返す」という例を紹介しましょう。
和泉さんは目上の人が部下らしい人にエレベーターの中で
「展示会の季節になったね」
という言葉をかけるのを耳にしました。
そのあとの部下のあいづちに、和泉さんは思わず感心してしまいます。
「そうですね。うちの展示会は、毎年いい季節ですね」
若者の言葉はオウム返しのようでいて、「毎年いい季節」という前向きの気持ちを乗せていたからです。
会話がはずみ、良いチームワークが熟成されていく職場は、このような、ちょっとした心遣いによって実現するのです。
いやぁ〜。いいこと聞いた。
さっそく明日から使ってみようっと。
きちんと考えている上司なら、若者ともきちんと話をしたいものです。
和泉さんは、若者の気質を次のように解説しています。
「若い人のなかには、会話を苦手だと思う人が多いようです。
できるだけ近寄らず、人と距離を置きたいと考えています」
この気質が「最近の若者」の特徴なのか、それとも「若者というものは昔からそうだった」ということなのか。この10年くらい新入社員のめんどうを見ていない私には、どちらなのか、よく分かりません。
いずれにしても、場数をふんで、コミュニケーションの技術を磨いたほうが、自分のためにも、社会のためにも良いことです。若者であっても、おじさん、おばさんであっても、おじいちゃん、おばあちゃんであっても。
余談ですが、家族で買い物に行ったときなどに、人の集まるところで傍若無人にふるまっているお年寄りをみかけることがあります。
思わず顔を見合わせてしまうほど呆れたときは、カミさんが
「いまどきの年寄りは……」
と言い、私が
「まったく、まったく」
と返すことにしています。
良いことも悪いことも、世代の共通性よりも個人の気質のほうが強い、と私は思います。
和泉さんが「部下をタイプで分類しない」といましめているのも、きっと同じことを言っているのでしょう。
もうひとつ余談になりますが、私の新入社員時代の教育担当者は、まだ目新しかった血液型人間学の信奉者でした。
私ともう一人の新入社員の血液型がたまたまいっしょで、おりに触れて「さすがに二人は同じ血液型だねえ」と決めつけられます。
「一緒にしないでください!」と何度も言いましたが、聞き入れてもらえませんでした。
今となっては、なつかしい思い出ですが……。
余談から本書にもどりますが、著者の和泉さんは人間の性格を9つに分類した「エニアグラム」の研究家で『やってみようよエニアグラム』という本も出されています。
人間をたった4つに分類する血液型は信じませんが、9つなら信憑性がありそうです。
「やってみようよ」という和泉さんのお誘いに乗ってみてはいかがでしょうか。