稼げる人、稼げない人
副題:いま企業がもっともほしい人材とは
著者:高城 幸司 出版社:PHPビジネス新書 2009年10月刊 \819(税込) 179P
PHPさんから献本いただきました。
(ビジネス出版部のUさん、ありがとうございました!)
このブログと並行して発行している私のメルマガは「ココロにしみる」をテーマにしているで、題名に「稼ぐ」と強調している本を取りあげるのはどうかと思いましたが、身につまされる内容にグッときましたので、紹介させていただくことにしました。
本書の主題はとても分りやすく、
普通に仕事ができるくらいの社員は、会社の都合で振り回される。
だから、あなたも仕事がデキル人を目指して欲しい。
そのために行動すべきこと、やってはいけないことを指南してあげる。
ということです。
本書で「稼げる人」と呼んでいるのは“会社の利益に貢献する人”のことで、「デキる人」と言いかえたほうがスッキリします。でも、『デキる人、デキない人』では本の題名としてインパクトが少ないので、もっとあざとく『稼げる人、稼げない人』と命名したのでしょう。
私が身につまされたのは、本書の前段に書かれている、
会社に認められない人は職場を転々とさせられる
という著者の指摘です。
私はコンピュータのSEとして多くのシステムを手がけてきたのですが、大きなプロジェクトが終わったときに、突然、本社への転勤命令を受けました。
本社へ転勤を「栄転」という人もいますが、私の新しい職場はスタッフ部門。お客様向けのセミナーを企画したり、パーティーのセッティングをしたりというサポート業務です。SEとして身につけたIT知識はほとんど使う場面もなく、この先どうすればいいのだろうか、と不安になりました。
周りを見渡してもお手本になる先輩はいませんし、数年で入れかわる人ばかり。
「自分は根無し草になってしまうんだろうか……」と暗い気持ちになったものです。
そんな6年前の出来事を思い出させたのが「会社に認められない人は職場を転々とさせられる」という著者の指摘です。
著者の高城氏が言うには、会社は稼げない人の面倒を真面目に見ません。
とはいえ、いくらダメ社員でも簡単にはクビにできないので、配置換えしたり、出向させたりして「君には期待していないよ」というサインを送る。不本意な人事異動は、稼げない社員へのイエローカードだというのです。
会社員であれば薄々感じていることですが、こう露骨に書いた本を見たのははじめてです。
この厳しい現実に目覚めて、あなたもデキる人、稼げる人を目指しましょう、と高城氏は言います。
本書では、稼げる人になるための対策として、各章で
- 稼げる人は何が違うのか?
- 稼げる人が備える五つのコンピテンシーとは
- なぜ、あなたは稼げないのか?
- 稼げない人の行動パターンを反面教師にする
- 稼げる人は話せば3分でわかる
- 稼げる人になる事業計画
- あなたは、どのように稼ぎたいか
を具体的に教えてくれます。
ぼやぼやしていると、将来不安ですよ! と脅かされて初めて気づくこともあります。自分は、あまり積極的に仕事していないなぁ、と感じている人にお勧めです。
また、「俺はデキる社員だ」「稼いでいる!」と自負のある人は、高城氏のアドバイスがどれくらい実行できているか確かめるのも良いでしょう。
たとえば、高城氏の指摘では、稼げる人のタイプは次の3つのどれかに当てはまります。
タイプ1:独立志向で挑戦意欲が高い
タイプ2:偉くなりたいと出世意欲が高い
タイプ3:とにかく稼ぐ仕事が猛烈に好き
我が身をふりかえってみると、6年前の私は3つのタイプが全部当てはまる積極的な人間でした。むしろ上昇志向が強すぎて、よく課長と衝突していたものです。
高城氏の言うように指示待ち人間では稼げる人になれませんが、積極的すぎてもイエローカードを出されてしまう。
難しいものですね……。
少しだけ私の後日談を書かせていただくと、悩んだ結果やはり「SEに戻りたい」と目標を決めました。
スタッフ部門には全く必要のないPMP(Project Management Professional)という資格をとってアピールし、まず本社内の技術部門に異動させてもらいます。その後2回の異動を経て、この10月に、とうとう前の職場に復帰することができました。
6年間のブランクがあるので、いわゆる“出世”は縁遠くなってしまいましたが、今はやりたい職種に戻ることができたことを喜んでいます。
今度は上司と衝突しないよう気をつけ、高城氏のアドバイスも参考にしていくつもりです。
さて、献本いただいた本を褒めただけでは提灯記事になってしまいますので、少し辛口の意見も書かせていただきますね。
それは、高城氏が挙げている“悪い例”は、そんなに悪くないんじゃない? むしろ高城氏に問題があるんじゃない? ということです。
ひとつは、新入社員に名刺整理を命じたときのこと。
3千枚〜4千枚の名刺を新入社員に渡して、
経営者、管理職、一般社員の名刺をいったん分けて、
それから取引先とそうでないものを分けておいてくれ
と指示しました。
役員に呼ばれて席を離れた高城氏は、2時間後に戻っておどろきました。「適当なところまで、やってくれればいいから」と言っておいたのに、新入社員はまだ名刺整理を続けていたのです。
高城氏は、取引先の名刺がある程度わかれば良い、と思っていたので、「適当」が分らない新入社員を悪い例と決めつけています。
しかし、新入社員は社風という空気の読み方を学んでいる最中なのですから、「適当」を理解しろと求める方が間違っているように思います。
これじゃ、部下の理解度を確かめることもできない悪い上司の例――コミュニケーション能力の低い上司そのものじゃありませんか。
もうひとつは、家庭の夕食準備を例として日々準備を怠らないことの大切さを述べたとき。
妻は夫の食べた食事の内容を検討して、夫が食べたいものが何かを推測しておいたほうが良い。そうしないと、たとえば帰宅後に夫が「カレーライスを食べたい」と言ったとき、買い物からはじめることになってしまう、と高城氏は言っています。
まず妻を部下と見立てることもおかしいですし、夫が仕事で専業主婦(と思われる)妻が食事をつくるというステレオタイプもどうかと思います。この設定に目をつぶったとしても、帰宅後に夫が「カレーライスを食べたい」と言うシーンを当たりまえのように挙げているのは、もう時代錯誤です。
たとえ妻が専業主婦だったとしても、夫は家事を分担するのが時代の流れ。私なんか、夕食後の食器洗いを毎日実行してますよ。
帰宅後に食べたいものを告げるなんていうのは、仕事さえしていれば家事を分担しなくてもいいと宣言しているのと同じです。
これでは、家族の声に耳を傾けない、コミュニケーション能力の低い亭主そのものじゃありませんか、高城さん。
以上、本筋を外れた部分に批判めいたことも書きました。まあ本筋はよかったと思いますよ(^_^;)。