俺はモテても困らない


副題:松尾スズキの突然独身ブログ


著者:松尾 スズキ  出版社:ロッキング・オン  2009年9月刊  \1,470(税込)  311P


俺はモテても困らない―松尾スズキの突然独身ブログ    購入する際は、こちらから


ロッキング・オンさんから献本いただきました。(編集者のOさん、ありがとうございました!)


表紙を見て、すぐ読むべきか、あと回しにすべきか、少し迷いました。


有名人ブログを書籍化したものなのですが、私は「眞鍋かをり」ブログから足を洗って以来、有名人ブログを読んだことがありません。
おまけに、「松尾スズキ」という名前を全く聞いたことがありませんので、献本されなければ、私の読書レーダーには絶対にヒットしない種類の本です。


でも、表紙を見て笑っちゃいました。


プレイボーイ風の白人男性の横に「俺はモテても困らない」と、ふざけた題名が書いてある一方で、帯にはコテコテの日本人のおっちゃんがフライパン料理しながら「今ひま? じゃ、読む?」と語りかけている。

  独身中年作家の
  仕事と料理と
  大いなる
  ひまつぶしの日々

という帯の文句に止めをさされ、「すぐ読む本」の1冊として机の上に置きました。


全く予備知識がないまま1ページ目から読みはじめて、だんだん分ってきたのは……

  • 副題に「突然独身ブログ」とあるように、離婚したばかりらしいこと
  • 別れた妻に引き取られた飼い猫を主人公にした連載を書いているので、ときどき飼い猫に会いに別れた妻の元へ通っていること
  • 別れた妻よりも料理が上手なこと
  • 日本アカデミー賞授賞式で最優秀脚本賞を受賞していること
  • その受賞作品が、あの『東京タワーオカンとボクと、時々、オトン』であること
  • けっこう売れっ子なのに、ときどき引きこもりたくなること
  • ブログの原稿を自分でアップできず、スタッフが代行していること
  • 劇団を主宰し座付作家を兼ねていること


等々です。


著者の松尾スズキは、劇団を主宰するというしっかりした土台があって、日本アカデミー賞を受賞するという実績も持ち合わせているのに、わりと日々グチグチしているおっちゃんなのです。


40代半ばなのに、思春期を思わせる感情の起伏と喜怒哀楽が楽しく、300ページ以上もあるのに、サクサクと読んでしまいました。


元気なときもあれば、落ち込んでいるときもあり、いろんな顔を見せてくれる本書のなかから、いくつか印象に残った箇所を紹介しますね。


まず、笑わせてくれたところ。


編集者がギャラを決めずに仕事を進めていくことを揶揄して、歌謡曲風に書いた詩。

  ♪なぜ……
  なぜ、編集者は
  こちらから切り出すまで
  ギャラの話をしてくれないの
  (中略)
  だ・か・ら
  (テンポアップ)
  そっちから切り出して
  そっちから切り出して
  お金の話は
  (中略)
  この東京砂漠…………

ムーディー勝山の人気がまだ衰えないころの日記のようです。


また、作品を作る側の矜持が感じられたひと言がありました。


いい映画がヒットしない理由を映画配給会社の人が、何か人ごとのように言った
ことに怒って、次のように書いています。


  ちょっと待てよ「売る努力」に関する負い目はないのかよ! と。
  うけとる土壌がなかったんですね。なんていって、だからこそ、いい映画が
  うける土壌をこつこつ作る努力をするのがあんたらの仕事じゃないのかしら。
  (中略)
  せめて恥じらいがほしいんだよ。



次は、怒り。


TSUTAYAでカード更新のときに保険証を見せても、ほかに住所を確認できるものを要求され、「ありません」と言うと、「では次の機会に」と言われるそうです。
それ以降は、映画やCDを借りるとき、必ず住所を確認できるものを見せてくれと言われます。


怒った松尾スズキ氏は、次のように書いています。

  ありません。という。
  保険証ではだめなのだ。
  では、次のときもって来てください、という。

  そういうやりとりを繰り返して、もう半年になる。

  もう、いいかげん、よくね?
  借りて返して借りて返してで半年なんだから。

  もーいいでしょうよ。じゃあ、返しに来ている俺はなにものなのよ。
  半年はね、簡単に一年になるよ。
  したら、また更新だよ。
  (中略)
  俺の保険証は作家組合発行なのでペンネームの「松尾スズキ」が、がっつり
  記載されている。

  それでもか?

  松尾スズキコーナーとか、たまに作ってくれてるじゃないか。
  棚から『イン・ザ・プール』(注:松尾スズキ主演の映画)持って来て、
  これ! カバーの写真俺よね!
  じゃ、だめ?

  今日のところはこれくらいにしといてやるよ。


松尾スズキ氏は、中年なのに、みずみずしい思春期の感性を持ち合わせた男です。


献本していただいた編集者のOさんが、「にぎやかで楽しい1冊になっています」と手書きで書き添えてくれたのは、ウソじゃありませんでした。