著者:梶原 しげる 出版社:新潮新書 2010年7月刊 \735(税込) 205P
質問者の意図も考えずに即答するのは配慮に欠けた行為。こんなバカなことをする若者が増えている。――以上を短く言うと、「即答するバカ」という本書のタイトルになる。
どんな即答かというと、たとえば昼飯どきの先輩と後輩の会話。
先輩「昼はあそこのパスタ屋でいいか?」
後輩「無理っす」
という即答。
旧来の日本語で「無理」というのは、「どうやっても不可能」という意味だった。
最近の若者ことばでは、それほど大げさな拒絶を表しているわけではなく、この場合、
「今日はどっちかというとカレーのほうがいいなあ」
くらいのニュアンスだという。
しかし、この種の「即答」は「無理です」に限らない。
上司「この企画書、今週いっぱいに書けるかな?」
部下「ダメです! 書けません」
いつも言葉のニュアンスに気を使っているフリーアナウンサーの梶原氏は、こんな即答は許せない。
おじさん世代の心情を代表して、次のように怒っている。
こういう部下を、簡潔な物言いで、頭がデキルやつだ、と評価する
上司はいない。こういう人には、南蛮渡来のロジカルシンキングな
どにかぶれる前に、伝統的な日本語会話をきっちり学習して欲しい
ものだ。
とはいっても、若者をこき下ろすだけでは解決にならない。
「即答するまえに、ちょっと言い方を考えてみたら」というアドバイスをコンパクトにまとめたのが本書である。
「新刊ラジオポットキャスティング」で新刊を毎日紹介している矢島雅弘氏も、しゃべりのプロとして参考になる箇所が多かったそうだ。
説教を聞かせたい若者が読むかどうかは分からないが、人のふり見て我がふりを直そうと思っている人にオススメしておきたい。
著者が例としてあげるエピソードはどれも読者を飽きさせない内容だったが、特に面白かったのが、お笑いタレント有吉弘行の芸風分析だ。
毒のあるあだ名をつけることで有名になった有吉を、梶原氏は毒舌タレントのに分類する。
有吉は次のようなあだ名をつける。
- 品川庄司の品川――――――――――→「おしゃべりクソ野郎」
- 南海キャンディーズのしずちゃん――→「モンスターバージン」
- チュートリアルの徳井―――――――→「変態ニヤケ男」
- サンドウィッチマンの伊達―――――→「田舎のポン引き」
- 中山秀征(ひでちゃん)――――――→「バブルの生き残り」
梶原氏に言わせると、有吉のあだ名は、人物を子細に観察し、評価したうえでの計算ずくの命名で、「言われる側のメリット」への配慮さえ感じられるという。
例えば品川さんは、どんなネタでも食らいつく「おしゃべり男」が売りだ。
しずちゃんは巨体で、ボーッとして、男性とは無縁そうなところがキャラ。
徳井さんは二枚目チャラチャラのニヤケぶりを隠さないのが人気の秘密。
東北出身のサンドウィッチマンの二人は「あやしい田舎者っぽさ」が芸風だ。
中山さんは、あえて時代錯誤的「ザ・芸能界」を意識的に演じるところがあり、その点をみごとに言い当てられている。
さすが同業者。よく見ている。
ただし、有吉が「毒舌芸人」として高みをめざすのであれば、毒を吐いたあと、もっとフォローに気をつかうべき、とも言っている。
毒を吐きっぱなしにしない綾小路きみまろや毒蝮三太夫の芸風をみほんにしたほうがいい、というのが梶原氏の助言だ。
他にも参考になりそうな話がたくさん載っていたが、梶原氏のアドバイスは、直接読んでいただいた方が身につくと思う。
話し方に特に興味がある人はもちろん、興味のない人も、このくらいの基本はおさえておいた方がいいかもしれない。