ウェブ時代5つの定理


副題:この言葉が未来を切り開く!
著者:梅田 望夫  出版社:文藝春秋  2008年3月刊  \1,365(税込)  269P


ウェブ時代 5つの定理―この言葉が未来を切り開く!    購入する際は、こちらから


「ウェブ時代」という言葉を流布させた梅田氏自身が、インターネット時代を生き抜くための5つの法則(定理)を提示した本です。


梅田氏が挙げたのは、次の5つの法則です。
  第1定理 アントレプレナーシップ
  第2定理 チーム力
  第3定理 技術屋の眼
  第4定理 グーグリネス
  第5定理 大人の流儀


この5つの定理を証明しているのは、実は梅田氏の言葉ではありません。


シリコンバレーで梅田氏が仕事をするなかで出会った起業家や投資家、天才的技術者など、世界を俯瞰し未来を見通そうとしている人たち(ビジョナリーと呼ばれる人たち)が発信している、切れ味鋭い言葉たちです。


16年前にアメリカに渡った梅田氏は、膨大な時間を費やしてビジョナリーと思われる人びとが発する大量の言葉に耳をかたむけてきました。砂漠で金を探すような思いで集めた文字通り「金言」に寄り添い、その背景にある思考や発想をさぐり当てながら、自らの思考の核に昇華させてきたのです。


梅田氏は、集めた金言を現代社会で働くすべての人に役立ててほしい、仕事のさまざまな局面で読み返し活用してほしい、と念願して本書を書き下ろしました。
ですから、どの言葉も梅田氏の思い入れがこもっています。「何となくいい言葉だから」と集めた言葉は一つもありません。


特に第1定理は、梅田氏が不確実な未来を恐れずに、会社をやめて起業したきっかけになった言葉、背中を押し勇気を与えてくれた言葉がこれでもか、と挙げられています。


アントレプレナーシップ」は一般的には「起業家精神とか「企業家精神」と訳されています。どちらもこの言葉のニュアンスを外しており、梅田氏は最も近い意味合いとして「進取の気性に富む」を推します。


シリコンバレーで仕事していて、アップルが自分たちのことを「世界史を書き換える“第3のリンゴ”」と称することに衝撃を受け、「世界がどう発展するかを観察できる職につきなさい」という言葉に導かれるようにして、梅田氏はアメリカへ移住し、新たに会社を起こしました。


第2定理、第3定理では、シリコンバレーの創造性の源泉であるチーム力と、技術者の気質、特徴的な考え方を解説し、第4章では、シリコンバレー精神の最良の実例といえるグーグル社の基本精神を詳述しています。


最後の第5定理ではネット空間でのふるまい、人間の善性への信頼など成熟した個としての生き方をテーマにした金言を解説し、読者一人ひとりが自身の「最終定理」(仕事上の夢やライフワーク)を証明してほしいという願いを書いて「あとがき」を結んでいました。


大量の砂の中から砂金を探し求めるように金言を集め、自身の仕事や生き方を変えてきた梅田氏です。
読み終えて、次のようなメッセージが伝わってきました。


  どんな素晴らしい金言も、知識として蓄えているだけでは
  何も変わらない。
  さあ、あなたも行動を起こそう。


ところで、本書は、ひょっとすると梅田氏の単著としては最後の作品になるかもしれません。
というのも、梅田氏は自身のブログ「My Life Between Silicon Valley and Japan」の4月19日記事で、
  「モノを書く仕事(中略)は、原則としてしばらくしません(期限未定)」
と宣言しているからです。
12年以上続けてきた新潮社の定期購読雑誌「フォーサイト」の連載も終了しました。


梅田氏はこの二年半に『シリコンバレー精神』、『ウェブ進化論』、『ウェブ時代をゆく』、そして本書『ウェブ時代5つの定理』と、たてつづけに単著を書き下ろし、『 フューチャリスト宣言』や『ウェブ人間論』などの共著を同時進行で出版し、もうすぐ、もの書き休業前の最後の本『私塾のすすめ』(齋藤孝氏との共著)が店頭に並びます。


これだけの本を世に送りだしたあと、梅田氏は次のように心境を語っています。
  「四十代のうちに書いてみたい」と構想していたことを、三年前倒し
  ですべて達成できたけれど、そのかわり自分が空っぽになってしまった。


フォーサイト」の最終回の原稿は近くWebページにも掲載されます。充電期間に入る梅田氏は、どんな別れの言葉を発してくれたのでしょうか。