著者:溝江玲子/作 後藤ゆきお/絵 牧野和子/絵
出版社:新日本出版社 1996年11月刊 \1,427(税込) 126P
小学校中・高学年向の児童書です。
夏休みも後半に入ったある日、小学校4年生の祐太は、近所のビルの建設現場に幽霊が出るというウワサを耳にしました。
ビルの建設現場には、以前ひょうたん池という小さな池があり、子どもたちの遊び場でした。埋め立てのおかげでサカナ釣りもできなくなってしまった祐太とケンは、ひょうたん池の遊びおさめとして、幽霊探しに出かけることにします。
夜中にビルの建設現場に忍びこみ、幽霊がいるらしいという穴の底に降りていってみると、「ヒイーィ、イィーイ……」という、泣き声ともなんともつかない気味悪い声が聞こえてきました。
逃げだそうとした二人に、こんどは「タスケテ……」というかすかな声が聞こえ、声のする場所に恐る恐る懐中電灯を近づけてみると、なんと! カッパが助けを求めていることが分かりました。
掘り起こして助け出し、話を聞いてみたところ、このカッパ名前を「かーやん」と言い、ひょうたん池に先祖代々、何万年も住みついてきました。
ところがこの春、冬眠からさめて外に出ようとしたら、掘っても掘っても土ばかりで、ちっとも上に進めません。まわりに水気は少ないし、冬眠後で体力もないし、動けなくなっていたところに祐太たちがやってきたのです。
「かーやん」を家に連れて帰った祐太は、仲良しのケンと、憧れの女の子涼香といっしょに、水がたくさん流れている田舎の川に「かーやん」を連れていってあげることにしました。
大人に見つからずに「かーやん」を田舎に連れていくにはどうしたらいいのか。
祐太が考えついたのは……。
「かーやん」を自然界に戻してあげることを縦軸にした、ひと夏の冒険の物語です。
ふつうなら私の読書範囲ではなく、興味の対象にも入ってこない小学校中・高学年向の本書を手に取ったのは、ご本人から贈っていただいたからです。
著者の溝江さんに初めてお会いして名刺交換したときに、私の『泣いて笑ってホッとして…』を買っていただいたのですが、あとから考えると、私も自分の本を差し上げるべきでしたね。
反省はさておき、久しぶりに読む児童書、それも小学生向けの本書に、私はあまずっぱい味を感じました。
あまずっぱい味といえば……、そうです。初恋の味カルピスです。
いまや味の素グループに入ってしまったカルピスですが、むかしむかしは「初恋の味」をキャッチコピーにした高級贈答品でした。
テレビコマーシャルには、「しおりちゃん」という女の子が出てきて、氷の音をカランとさせながら、子どもらしい可愛らしいしぐさでコップをかき混ぜ、ストローでカルピスを飲んでいたものです。
小さな学校のため、ガールフレンドどころか女の子の同級生もいなかった小学生の私は、このコマーシャルを見るたびに、女の子へのほのかな憧れと同時にカルピスのあまずっぱさを感じていたのでした。
本書に登場する涼香は、祐太にとってちょっと苦手な存在です。クラスの優等生の涼香が、大きな目を見はって話しかけてくると、いつもなんだか胸がドキドキしてくるからです。
そんな涼香が、「かーやん」をどうしたらいいか、いっしょに考えてくれる。しかも、自然の川にもどしてあげるため、自分のおばあちゃんちに遊びにいく口実を作ってくれ、祐太とケンもいっしょに行くことに。
「かーやん」の落ち着き先も心配だけど、涼香ちゃんといっしょに過ごせることの方がうれしい。
そんな祐太のウキウキした心も伝わってきます。
小学校4年生の年ごろの男の子は、女の子をこんなふうにちょっと意識して過ごしている。そんな日もあったなあ、と少しだけあまずっぱい思い出にひたらせてくれました。
もちろん、現役の小学生にとっても、わくわく、ドキドキの冒険物語です。
子どもに買ってあげて、あとでコッソリ親も読んでみてはいかがでしょうか。