肩書だけの管理職


副題:マクドナルド化する労働
著者:安田 浩一 斎藤 貴男 共著  出版社:旬報社
2007年12月刊  \1,365(税込)  159P


肩書だけの管理職―マクドナルド化する労働 (シリーズ労働破壊)    購入する際は、こちらから


労働現場の驚くべき実態を告発する「シリーズ労働破壊」というシリーズがあります。
偶然手にした3巻目には、「店長は管理職だから残業代は払わない」という論理で給料が抑えられ、おまけに本部から与えられるノルマ達成のために過労死しかねないほど働かされている労働の実態が告発されていました。


労働基準法では管理監督者は労働時間や休日に関する規定の適用を除外され、本人の意思で制限なく働いても労働基準監督署に注意されないことになっています。
ところが大規模チェーン店の店長は、本部の細かい指示に従わなければならず、ちっとも自己裁量が認められていません。店長自身がバイトの代わりをして人件費を浮かせることを求められることもあります。
肩書きだけは管理職でも、これでは奴隷労働ではないか!そう叫びたくなる4社の事例が本書に取り上げられています。


はじめの事例は、副題にもなっている日本マクドナルドです。
店長の高野廣志さん(実名)は、2005年12月に残業代の支払いを求めて、会社を相手にして訴訟を起こしました。あまりの長時間労働に、過労で倒れる寸前まで追い込まれた末の決断です。
早朝に家を出て、帰宅したときには日付が変わっている日々が続き、休日も月に3日あるかないか、という状態でした。


体力的にギリギリの毎日を送るなかで、共働きをしていた妻が先に倒れてしまったのですが、そのときの息子のひと言が高野さんに追い討ちをかけました。
 「僕たち家族が死んでも、お父さんは忙しいから、
  きっとお葬式にもでられないね。
  お父さんはあてにできないよ」


さらに事態を深刻にしたのは、もっと家族と向き合いたいと思って計画した家族旅行の結末でした。


泊まりがけでディズニーランドに行こう!
そう決めて、家族みんなで楽しみにしていたところ、旅行の数日前にベテランのパート社員が急に辞めてしまいました。いろいろ手を尽くしましたが、店長自身が店に出るしか解決策がなくなり、とうとう父親ぬきの旅行になってしまいます。


訴訟を起こすことを決めたのは、人間らしく生きるための闘いを起こすことでもありました。
会社からの強制タダ働きを許さない。
働くことに誇りを持ちたい。
家族の愛情をはぐくむ時間を持ちたい。


こんな最低限の人間としての要求を裁判に訴えるまで追い込んだのは、最近業績好調な日本マクドナルドです。


本書には、この他、すかいらーく、セブン−イレブン、コナカ、CFJの全部で5つの事例が載っています。
いずれも、約20年の間に飛躍的な発展をとげ、かつては真の意味の実力主義で報いられる労働環境があり、勤労者があこがれる職場でした。しかし、時代が移り、経営環境が変わるにしたがって、人材が勝負なはずの会社が、人件費を抑えることだけを優先するようになってしまいました。数字の上だけの合理化が、現場の労働者への理不尽な圧力となってのしかかってくるようになったのです。


本書を読んで、昨年、私の学生時代の友人から聞いた話を思い出しました。友人の娘さんの結婚相手の話です。


ある有名な居酒屋チェーン店に勤める娘のダンナは、店長に昇格したとたんに残業代が無くなって給料が激減してしまいました。何ヶ月か頑張ったものの、とても生活していけなくなって店長から一般店員に降格してもらった、とのことです。


「あの社長、テレビでカッコいいことばっかり言っていて、自分の社員
 からこんなひどい搾取をしているなんて……。
 俺は絶対許さないぞ!」


ふだんクールな言動の友人が声を荒げ、怒りの激しさが伝わってきました。


こんな日本の労働環境でホワイトカラー・エグゼンプションが導入されれば過労死が増えることは間違いありません。2006年に見送られたものの、厚生労働省が依然として国会提出をうかがっているとのこと。
なんとしても阻止しなければなりません。


本書の後日談として、最近明るいニュースが続きました。


本書の最初の事例に載っている高野さんの訴訟に、東京地裁は1月28日、「店長は非管理職」と断定してマクドナルドに残業代支払いを命令しました。


このマクドナルドの判決を受け、本書の3番目の事例のセブン−イレブンも2月8日に店長に残業代を支払うことを決めました。


また、4番目の事例のコナカ元店長に過去の残業代支払いで合意したというニュースも1月23日に報じられています。