著者:藤本 ひとみ 出版社:日経BP社 2007年10月刊 \1,680(税込) 220P
藤本さんの本を取り上げるのは、2回目です。
前回は、昨年4月17日の読書ノートで『シャネル』を紹介しました。
あまり藤本さんの作家歴を知らなかったのですが、本書の巻末作品リストを見ると、フランス革命期からナポレオン帝政期を主題にした作品をたくさん書いておられます。特に「ナポレオン・フリークの作家」とよばれるほどナポレオンが大好きで、プロフィールには、「在フランス・ナポレオン史研究学会会員」とあります。
歴史に精通するうちに、その国に住み着くようになった作家、というと、イタリア在住でジュリアス・シーザーが大好きな塩野七生氏を連想します。……が、作風も文体も(たぶん年齢も)まったく違う2人を比べるのはやめておきましょう。
それほどナポレオン大好き作家の藤本さんが、ビジネスパーソン向けにナポレオンの行動力・実行力などを解説したのが本書です。
かの英雄ナポレオンの事跡を学びながら、ビジネスに大切な20のノウハウも学習できる。ひとつぶで2度おいしい試みです。
でも、題材になるのが、軍事的・政治的天才で、しかも睡眠時間3時間の努力家だったといわれる偉人です。
なみ外れた能力を凡人がまねしようとしてもねえ……、と期待うすで読み進めてみると、藤本さんは決してナポレオンがなし得たことだけに学ぶのではないことがわかってグッと興味が増しました。ナポレオンが失敗したことがらにもスポットをあて、反面教師としてナポレオンからも人生の教訓を引き出してくれるのです。
たとえば、第5章の「孤独に耐える力」で、1814年のフランス戦役でのエピソードが引かれています。
ナポレオンは、プロイセン軍、オーストリア軍、ロシア軍の連合軍と戦いを繰り広げ、圧倒的に不利な戦力にもかかわらず、敵を分断してパリ近郊から追い払いました。
ところがナポレオンが妻に宛てた一通の手紙が連合軍に渡ったことから、戦局は逆転します。
連合軍が捕らえた伝令が持っていた手紙には、フランス軍の今後の作戦計画が書いてありました。連合軍は作戦の裏をかいて戦果をあげ、このフランス戦役の失敗のおかげでナポレオンは皇帝を退位することになります。
ナポレオンが孤独に耐えて、妻に宛てた手紙を書かなかったとしたら、歴史は変わっていたかもしれません。
ここで著者は、じつはナポレオンが繊細な性格で、よく胃を病んでいたことを引き合いに出し、
コルシカ島という家族主義の強い風土の中で育ったために、
孤独に耐える力が養われなかったのかもしれません。
と厳しく裁断しています。
このほか、チャンスに飛びつきすぎたナポレオン、後継者選びに失敗したナポレオン、ライバルへの対処を誤ったナポレオン、人材育成できなかったナポレオン等、意外とドジで人間的なナポレオンを登場させています。
さすがナポレオン・フリークと呼ばれるだけのことはあります。
弱点も含め、きっとナポレオンが大好きなのでしょう。
こんなにナポレオン好きの著者が、ナポレオンの危機への対処、成功と失敗を分析し、どうしたらその力を身につけられるかを明かした一書です。
これらの力を全部自分のものにすることができれば、きっとあなたも、著者の言うとおり「ナポレオンを超える『仕事のできる人間』」になることができるでしょう。
とても全部自分のものにすること無理、という人でも、天才ナポレオンの弱点を知ることは、きっと精神の余裕につながる。――と著者は言っていませんが、私はそう思いました。
お試しあれ。