自民党で選挙と議員をやりました


著者:山内和彦  出版社:角川SSC新書  2007年12月刊  \756(税込)  174P


自民党で選挙と議員をやりました (角川SSC新書)    購入する際は、こちらから


家族で北海道旅行にいったとき、「網走監獄にいってきました」というお菓子をみかけました。ストレートに「おみやげです!」と主張しているネーミングに笑ってしまいましたが、他の観光地でもはやっているようです。


本書も同じです。
選挙に出て、議員活動するなんてめずらしいことを経験して、また一般人に戻った山内さんが、「聞いて聞いて、選挙と議員っておもしろかったよ〜」と話を聞かせてくれる。そんな「おみやげ話」の本です。



世の中が愛知万博で盛り上がっていた2005年5月、山内さんは一本の電話を受けました。
電話の主は、以前、選挙のお手伝いをした自民党衆議院議員で、
  「選挙の公募があるんだけど、山内さん、やる気ありますか?」
という藪からスティックなお話です。


なんでも、川崎市議選の補選の候補を自民党が公募している、とのこと。


締め切り間近で「考えさせてほしい」という余裕もなさそうだったので、山内さんは、「やります!」と即答してしまいました。


論文提出、面接を経て山内さんは公募に合格しました。当時は小泉人気のおかげで自民党支持者も多かったので、これで選挙に勝ったも同然、と思った山内さんですが、ここからめくるめく選挙運動の日々がはじまりました。
あっ、いま「選挙運動」と書きましたが、厳密にいうと「選挙運動」は選挙が告示されてからしか行ってはいけません。露骨に「10月の補選で私に投票してください」という行為は公職選挙法で禁じられているのです。


山内さんは、自民党の「川崎市連青年局副局長」という党の役職をもらって、議員でもないのに「政治活動」を開始します。無所属の候補者は、こういう肩書きと活動ができませんので、これだけでも組織政党の力を再認識する山内さんでした。


それから先は、選挙区内への引っ越し、あいさつ回り、イメージポスターの作成と初めての経験のオンパレードです。
新聞や雑誌によく目を通し、政治的感心が強いつもりの山内さんでしたが、聞くと見るとは大違い。政治の世界には、一般人が知らない常識がたくさんありました。


不思議の国に迷い込んだ山内さんのドタバタは、読んでのお楽しみとさせていただきますが、特に印象深かったことを3つ紹介します。


その1
市議選の候補者は、それぞれ4000枚の選挙ハガキを、選挙期間中に出せます。しかも、すべて無料扱いというのが驚きです。
本書には書いてありませんでしたが、この費用は選挙管理委員会が出しているのでしょうか。ひょっとすると、郵政事業法か何かで、郵便局が負担するように決められているのかもしれませんね。(どなたか、詳しい方がいたら教えてください)


その2
自民党から出る公認料は、川崎市議選の場合50万円とのこと。ただし、山内さんの場合、補選では党もいろいろ出費が多いので、授与式のあとに返金するよう求められました。
これには山内さんもガッカリしました。
「だったら最初から公認料の授与式などやらなければいいと思う」と、けっこうお怒りです。


その3
ふだんは「うちの奥さん」と呼んでいる山内さんが、演説のなかで「妻」と言ってみたところ、党がつけてくれた選挙参謀に「家内」と言うように指導されました。政治の世界ではそれが一般的、とのことです。
やはり保守的傾向の強い自民党だからでしょうか。



このあと、当選したあとの議員活動のお話と、次の選挙に不出馬となった経緯も書かれています。


山内さんの選挙活動は、映画にまとめられてベルリン映画祭で初上映され、民主主義発祥の地であるヨーロッパの人々から大きな反響も得たそうです。


なかなか面白い「おみやげ話」でした。