ワインバーグの文章読本


副題:自然石構築法
著者:ジェラルド・M・ワインバーグ/著 伊豆原弓/訳 
出版社:翔泳社  2007年11月刊  \2,310(税込)  249P


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久しぶりに文章読本を取りあげます。
今回の著者は、小説家でもなければ、日本人でもありません。コンピュータソフトウェアの開発手法について多くの著作を持つアメリカのライターです。


もちろん、「だ体」がいいか「です・ます体」がいいか、とか、句読点をどのようにつけるか、など日本語特有の文章術は載っていません。
代わりにワインバーグ氏が本書で教えてくれるのは、どうやって文章の題材を集めるか、集めた題材をどのように組合せて文章を完成させるか、という万国共通の問題の答えです。


本書の冒頭、大学の作文授業の体験から得た結論がズバッと提示されます。
それは、
  「興味のないことについて、書こうと思うな」
ということです。


生徒の知っていることを題材にして、表現の方法をこねくり回す方法を教えるのが作文教育である。そう信じている先生が、世界中にあふれています。そんな国語教育への怒りが本書を書く遠いきっかけになりました。


ワインバーグ氏の提案する方法は、世の中で見聞きすることすべてのことがらから文章の題材を集める、という方法です。


著者は、集める題材を自然の中に転がっている石――自然石にたとえました。ひとつひとつ形も色も違っていい。ダイヤモンドや金鉱を探す必要もありません。集めて、取捨選択して、構成を考えて組み合わせれば、きちんとした壁(作品)を作ることができる。
それが自然石構築法なのです。


40冊以上も本を出している経験が随所に語られているのはもちろんですが、いかにもワインバーグ氏らしいのは、アウトラインや構成について述べる本書の後半を、「自然石構築法をうまく説明するためのアウトライン」という実例をもとにしながら述べているところです。
プログラムの世界でいう「リカーシブルコール」のような、合わせ鏡を覗きこむような、軽いめまいを感じているうちに、あ〜ら不思議。
ワインバーグ氏の手法がなんとなく理解できたような気がしてきます。


読者に理解してもらうための、こんな工夫もあるんですね。


本書の魅力をもうひとつだけあげておくと、ひねりの効いたジョークがいつものように繰り出されることです。


ひとつ紹介させていただきます。

  ある若い男がいて、若いときに偉大な作家になりたいと話していた。
  「偉大な」とはどういう意味かとたずねられ、
  「世界中の人に読まれるもの、人びとが心の底から反応するような
   ものを書きたい。人々が苦しみと怒りで泣き叫ぶようなものを」
  と答えた。
  その男はいま、マイクロソフトでエラーメッセージを書いている。


たしかに、マイクロソフトのエラーメッセージを読むと、人々は苦しみと怒りで叫びだしたくなるでしょう。
エラーメッセージではなく、きちんとした文章で人の心を動かそうと思ったら良い題材を集めなさい、という教訓が続くのですが、ワインバーグ氏のメッセージは、このジョークと一緒にきっと読者の記憶に残ることでしょう。


また、執筆時の集中の仕方、気分転換の実例、出版社との交渉経験なども明かされています。


文章を上達させたい人にお勧め。それとIT業界人にもお勧めです。