著者:佐藤 賢一 出版社:中央公論新社 2016年1月刊 \1,998(税込) 412P
紀元前3世紀にローマとカルタゴの間で戦われた第二次ポエニ戦争を舞台に、ローマの将軍スキピオの活躍を描いた歴史小説である。
著者の佐藤賢一氏は1968年山形県鶴岡市生まれ。
1993年に『ジャガーになった男』で第6回小説すばる新人賞を受賞したあとも文学部の学生をつづけ、1998年に東北大学大学院文学研究科を満期単位取得退学して作家に専念した。
専門の西洋史学の知識を活かした作品が多く、1999年に直木賞を受賞した『王妃の離婚』も中世フランス王室の裁判を舞台にしていた。
同じ1999年に出版した『カエサルを撃て』は、ガリア諸族を率いる青年ウェルキンゲトリクスとローマ軍総統ユリウス・カエサルの熾烈な戦いを描いた。
塩野七生著『ローマ人の物語』の中でも人気の高い第4巻『ユリウス・カエサル ルビコン以前』が4年前に出ていたが、第4巻の最大の山場であるガリア戦役を小説家の視点で再現した『カエサルを撃て』は、塩野節とは別な歴史の見かたを教えてくれる。
本書の題名『ハンニバル戦争』は第二次ポエニ戦争の別名である。カエサルのガリア戦争よりもおおよそ160年前に起こった戦争で、この戦いに勝つっことによりローマは地中海の派遣を確かなものにした。塩野七生著『ローマ人の物語』の第2巻に当たる。
物語は、17歳の青年スキピオが逢瀬の現場に踏み込まれる場面からスタートする。人妻と一夜をすごした彼は、執政官をつとめる父から「おまえには貴族の自覚というものがないのか」と叱責された。
「ときが、ときではないか」
「いよいよ戦争が始まるのだ」
青二才の主人公は実戦で鍛えられて成長していくが、カルタゴの武将ハンニバルが圧倒的な軍才を見せつけたカンナエの戦いで、ローマ軍が完全包囲されて殲滅される恐怖を体験した。
ローマ軍は永遠にハンニバルに勝てないのではないか、と思い悩みつつも、「ハンニバルに勝つためには、ハンニバルに学ぶしかない」と、スキピオは徹底的にハンニバルの戦法を分析していく。
満を持してカルタゴに逆侵攻し勝利を重ねることで、スキピオはハンニバルを本国に帰ってこさせることに成功する。