小説フランス革命1/革命のライオン


著者:佐藤 賢一  出版社:集英社  2008年11月刊  \1,575(税込)  263P


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全10巻でフランス革命を描く連作小説の第1巻です。


著者の佐藤賢一氏は1968年山形県生まれ。山形大学から東北大学大学院に進学し、学者の卵として西洋史学を専攻していました。在学時代に歴史小説を書くようになり、作品を次々と発表します。
1993年に『ジャガーになった男』で第6回小説すばる新人賞、1999年『王妃の離婚』で第121回直木賞受賞を受賞し、西洋歴史小説といえば佐藤賢一と言われるようになりました。


佐藤氏の作品の舞台は、主に中世のフランスです。
ローマ帝国中期を舞台にした『カエサルを撃て』や、禁酒法時代のアメリカを背景にした『カポネ』のように、他の時代から題材を取ったものもありますが、やはり得意ジャンルの作品が多くなります。


西洋史の中でもフランス史に精通した佐藤氏が構想20年で世に問うのが、フランス革命を舞台にした大河小説です。佐藤氏のライフワークとなることは間違いありませんし、代表作、最高傑作になるかもしれません。


本を手にする前から、期待感が膨らみますねぇ。
これは読むしかないでしょう!



さて、本書の内容を解説する前に、「ライフワーク」、「フランス革命」繋がりで連想する類書のことを紹介させてもらいます。


まず、「ライフワーク」について。


歴史小説作家が代表作となる長編を書いたのは、気力・体力が充実していた40代が多いように思います。
山岡荘八の『徳川家康』しかり、吉川英治の『宮本武蔵』しかり、そして司馬遼太郎の『坂の上の雲』しかり。


司馬遼太郎が『坂の上の雲』を執筆したとき、日露戦争関連の文献を来る日も来る日も読み続け、学者のように史実を極めていきました。酒の付き合いも絶って40代の情熱と勢力を全て注ぎ込んだ、という本人の回想文を読んだときには、作家の一念のすさまじさを感じました。


とはいえ、長大な作品にチャレンジする機会は、実績のある作家にしか巡ってきません。


佐藤賢一氏が「フランス革命」の壮大な歴史に取り組むことになったのは、売れっ子作家の証しなのです。



もうひとつ、「フランス革命」で思い出すのは、やはり『ベルばら』(池田理代子作のコミック『ベルサイユのばら』)です。


高校2年のとき、私のクラスで『ベルばら』全10巻の回し読みがはやりました。
後に宝塚のヒット作になったことで分かる通り、どう見ても少女漫画なのですが、女生徒だけでなく男子生徒までも「貸して貸して!」と読みたがります。


ただし、高校2年で世界史を選んだ男子生徒ばかりでしたが(笑)。


もちろん、私も回し読みの列に加えてもらいました。
ナポレオンはちょい役でしたし、歴史上実在しないオスカルの物語が中心でしたが、それでもフランス革命の流れが自然に頭に入ってきて、「ラクして勉強する」という「ドラゴン桜」的効果に感激したものです。



類書はさておき、いざ、佐藤賢一氏の大河小説に分け入ってみましょう。


『ベルばら』は一晩で読めましたが、同じ10巻でも佐藤賢一版の小説は一晩では読めません。(そもそも、まだ3巻までしか出てない(笑))
第1巻の本書は、1788年、フランス国王ルイ16世が全国三部会の開催を決定するところから始まりました。今後、重要な登場人物となるであろうミラボーロベスピエールを中心に物語りは展開していきます。


「三部会」というのは、聖職者代表の第一身分、貴族代表の第二身分、平民代表の第三身分の3つの身分が合同して開催する議会のこと。
第一身分と第二身分の特権二身分と違って、第三身分は議場の入り方から差別を付けられる状態です。
このままでは第三身分が何を決議しても却下されて終わってしまう。世界史で暗記させられた「球技場の誓い」が登場し、議会はようやく第三身分の意見を聞き入れてくれる流れになってきました。


しかし、腹の据わっていない国王ルイ16世が国民議会に解散を要求し、平民に人気のあった大臣ネッケルを辞めさせると、人民の怒りが爆発。


膠着状態の続くベルサイユから、何か大きな動きが見られるパリに向けて、ミラボーロベスピエールが出発するところで第1巻が終わります。


貴族でありながら第三身分のリーダー格となったミラボーが俗物の親分のように描かれていたり、後に多くの人をギロチンに送るロベスピエールが、まだまだ青二才として右往左往していたり。歴史上の人物が活き活きと描かれています。


大学受験を控えた受験生にはお勧めできませんが(笑)、受験勉強を懐かしみながら政治、革命、人権、歴史の渦を考えてみたい方にオススメです。