副題:アイデアはこうして生まれる
著者:小山 薫堂 出版社:幻冬舎新書 2006年11月刊 \756(税込) 199P
著者の小山氏はアカデミー賞外国語映画賞を受賞した映画「おくりびと」の脚本を書いたことで一躍有名になりましたが、決して脚本家に専念している作家ではありません。
コラム・小説の執筆、脚本家、ラジオパーソナリティー、企業の顧問やブランドアドバイザーなど多くの肩書きを持ち、日常的にアイデアを出し続けている人です。もう20年近く前のテレビ番組ですが、伝説の深夜番組「カノッサの屈辱」の放送作家だった、といえば、発想のユニークさが分かると思います。
本書は、その小山氏が自分の発想法のあれこれを書き連ねた一書です。
シロートには真似できないことも多いですが、頭を柔らかくするきっかけにはちょうど良く、文章も読みやすく工夫しています。
本の内容に入る前に、まず、本書の裏表紙のドッキリする言葉を引用します。
いつも一つのことだけに集中する、すぐビジネスに結びつける、
締切は必ず守る、思いついたことは必ずメモする、オンとオフは
しっかり分ける…では、突き抜けたアイデアは生まれない。
「いつも一つのことだけに集中する」からはじまり、模範的ビジネスマンの資質を並べあげていると思いきや、それじゃダメだ! と言うのです。
小山氏も、以前は一生懸命仕事に集中しようとしたこともあったそうです。しかし、経験を重ねるうちに力を抜くことの大切さを実感し、今のようなスタイルに落ち着きました。
小山氏が口ぐせにしているのは、「何か面白いことないかな」です。
「何か儲かることないかな」でもなければ、「これ仕事にならないかな」でもありません。「何か面白いことないかな」です。
それが、結果的に仕事になり収入に繋がっていくサイクルに乗せていますので、小山氏は、毎朝ワクワクして目が覚める日々を送れるようになりました。
やりたい仕事だけをやれる環境ですので、休みたいなあ、なんて思わない。多くの締切りを抱えていますが、ストレスで胃がキリキリ痛むなんてこともありません。
締切りの日に映画の脚本が1行も書けてなかった、という経験も明かしています。プロデューサーも役者もスケジュールを空けて待っていますが、書けないものはしょうがない。
「締切りを守って中途半端なできのものを渡すよりも、締切りを破ってでも、完璧なものを出そうと、いつも思います」
普通のビジネス書には、「締切りに間に合わない100点の仕事より、80点でも70点でも締切りに合わせるべき」というような教訓が書いてありますから、まさに逆転の発想です。
努力からひらめきは生まれない、が信条ですので、楽しみながらアイデアが生まれやすい体質にするしかありません。
ですから小山氏はレストランに行っても、自分だったらこんなメニューは出さないのにとか、こんな書き方はしないのにとか考えます。ついでに、その店にぴったりのメニューを考えたり、お客さんへのアピールの仕方、雑誌への売り込み方法まで考えるといいます。
自分が社長している事務所でも、スタッフの誕生日に毎年かならずサプライズのお祝いをすることにしています。
かなり手の込んだしかけで、そのままテレビのドッキリ企画に使えそうな内容を、芸能人でも何でもない社員の誕生日のために準備する。
本書の後日談になりますが、このドッキリ企画ばかりを集めた新刊『人を喜ばせるということ』がこの4月に中公新書ラクレで発売されましたので、職場の「お遊び」がそのまま「お仕事」になってしまいました。
最後は「面白いかどうか」で決まる
自分をワクワクさせることが、仕事の成果につながる。そんな環境を自分の周りにも構築したくなる一書でした。
本の内容から離れますが、本書の表紙には「007」と通し番号がふってあります。「ひょっとすると……」と思って調べたところ、やはり幻冬舎新書が創刊されたときの一冊でした。
読書ノート2月5日号で幻冬舎の社長である見城徹氏の書いた『異端者の快楽』を取りあげたことがあります。
小さな出版社だった幻冬舎をどうやって大きくしてきたか、何かに取り憑かれた著者とどうやって切り結ぶかを開陳した刺激的な一書でした。
見城氏には武勇伝がたくさんあります。社運を賭けたバクチのひとつに、文庫を創刊した1997年、一挙に62点を刊行したこともありました。
また、2006年11月に新書を創刊したときも17冊をまとめて出したのですが、今日とりあげた『考えないヒント』は、まさに創刊時の熱気が伝わる一書。見城氏が著者の小山氏に電話して出版を決めたというエピソードが本書の「あとがき」に書かれています。
気がつけば、本書のほかに創刊時の2冊を私の書評でも取りあげています。(日垣隆著『すぐに稼げる文章術』と、清水良典著『2週間で小説を書く!』)
3年前の新書でもまったく古く感じないのは、創刊時の話題作りのために著者とテーマを厳選したからなのでしょう。
よろしかったら、幻冬舎新書の創刊ラインアップ(こちら)もご覧ください。