新世紀メディア論 新聞・雑誌が死ぬ前に


著者:小林 弘人  出版社:バジリコ  2009年4月刊  \1,575(税込)  301P


新世紀メディア論-新聞・雑誌が死ぬ前に    購入する際は、こちらから


インターネットが本格的に人々の生活に入り込んできた時代に、新聞や雑誌が果たしていた役割はどのようにネットが実現していくのか。また、どうすれば新世紀のメディア主体者になれるのか。


大きな問題を大上段に論じた一書です。
新世紀のメディアらしく「日経ビズネスオンライン」で連載した原稿を元に、新たな原稿を加えて再構成しました。


「新聞・雑誌が死ぬ」という刺激的な副題ですが、従来のメディアが衰退していくのではないか、ということは、もう何年も前から議論されている問題です。
インターネットの普及によって、新聞の果たしてきたジャーナリズムとしての役割、雑多な情報を整理して提供するという雑誌のメリットが失われ、メディアとして成立しなくなってきているのではないか、という問いかけです。


当然、新聞・雑誌の業界人から反発されます。
「紙に印刷されなきゃ、コンテンツじゃない」と信念を持っている人も多いのが実情ですから、そういう人は本書の対象読者ではないことが最初に謳われています。


著者の小林氏は紙のメディアを編集した経験もありますので、業界人の信念を尊重しつつも、
  あなたの知る「出版」は、すでに死んでいる
  「出版業界」とは「取次制度依存業界」に過ぎない
という断定から本書をスタートしました。


いやぁ、挑発的です。


「お前、なに様のつもりなの」と出版人から呆れられそうなもの言いですが、それは冒頭だけ。紙メディアの編集もネット上の“メディア”も両方経験している著者が、本気でこれからの時代のメディアを考える人のための「論」が活き活きと展開されていきます。



かつてのメディアは、個人で作り出したり運営したりすることは不可能でした。しかし、インターネットのおかげで、「意志」さえあれば、誰でもメディアを持つことができるようになりました。


個人でもスタートできる特性から、小林氏は新世紀のメディアを「誰でもメディア」と本書で命名しました。


なんだよ、このベタな名前は! もうちょっとカッコいい名前つけろよ! という読者の反応を先読みし、小林氏は「はい、すみません。ほかに素敵な呼称が見あたらなくて」と先に謝ってしまいます。


この「矜持は持ちつつも、謙虚にふるまう」というスタイルは、ネットで成功するための条件を体現しているのでしょう。


「誰でもメディア」は、マスメディアのように大きな資本を必要としませんので、社会全体に訴求する必要がありません。最初は少人数の注目しか集めなくても、運営者の「熱さ」から共感が生まれ、やがてマスなメディアに無視できない影響力を持ってくるのです。


ウェブ2.0が騒がれたとき、ロングテールという考え方が提唱されました。多くの人が共通してアクセスする恐竜の「頭」の部分よりも、長いながーい「尾」の部分を充実させることの重要性を提示した概念です。
経営的な視点から新しいメディアを見ると、カギを握るのは「頭」でも「尾」でもない。「可能性は『トルソー』にこそある」と、小林氏は指摘しています。


ただし、新しい時代のメディアが金銭的な成功を約束するかどうかについては、「ウェブメディアは誰も儲からない?」とクエスチョンを投げかけます。


誰でも始められる(参入障壁が低い)という特性から、何かひとつ成功しかけるとフォロワーによるパクリ天国をまねきます。ただでさえ料金の安い世界で過当競争を行うわけですので、ひとつのパイを奪い合う“ゼロサムゲーム”よりも過酷な、パイがどんどん小さくなる“マイナスサムゲーム”に陥ると予言しているのです。


以前、私も湯川鶴章著『ブログがジャーナリズムを変える』や、佐野真一著『だれが「本」を殺すのか』を書評したことがありますので、小林氏の問題提起はよく分かります。


しかし、「ウェブ2.0」という言葉の流行も一段落した今、本当に小林氏の言うような新時代が本当に来るのか、という疑問も頭をよぎりました。


私の疑問は、次の一文を読んで払拭されました。

  オフィス・ワーカーの多くがランチ時間や手の空いたときにPC経由でさま
  ざまなサイトを閲覧していることをご存知でしょうか? その数はランチの
  ときに雑誌を読んでいる人の数より多いと推察されます


そうだ、私の職場でもランチタイムに自分の席でネットサーフィンを楽しんでいる人が多い。
雑誌「日経ビジネス」を読んでいる人よりも、「日経ビジネスオンライン」の記事を読んでいる人のほうがきっと多いに違いない。


ネットで書評を書いているのに、ネットの力を過小評価していたのかな。


――そう気づきました。


情報を受ける側から見るともっと便利な世の中になり、発信する側の敷居は低くなる代わり収入は少なくなる。


小林氏の言うとおり、今年が20年先までもが決まってしまう「決断の時期」にあたるとしたら、業界人ではない我々一般人もじっとしてはいられません。