ハゲタカ 下


著者:真山 仁  出版社:ダイヤモンド社  2004年12月刊  \1,680(税込)  317P


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『ハゲタカ 上』を取り上げて4ヶ月近く経ってから下巻を取り上げることになりました。どうせ紹介するなら、上・下巻いっぺんにすべきなのですが、なにぶん図書館でもすごい人気で、下巻を手に入れるのがこんなに遅くなってしまいました。申し訳ありません。


上巻のストーリーを少し復習しておきましょう。


この大仕掛けな経済小説は、バブルの崩壊直前の1989年からスタートします。冒頭、なぞの人物が「おのれ! 大蔵省!」と叫んで割腹自殺し、場面転換したニューヨークで、なぞの人物の息子であるピアニスト志望の青年が登場。アルバイトでバイヤーをやっているうちに投資家としての才能を開花させた青年は、父の割腹自殺の知らせを聞いて、ピアノを捨ててハゲタカ投資家になることを決意します。
他に、銀行の仕事に限界を感じて企業再建家に転身した元エリート銀行員や、親の放漫経営に厭気がさしつつも、実家のホテルの経営危機を救おうとする女性主人公も登場します。
ハゲタカの鮮やかな手腕が発揮され、青年は安く企業を買って高く売り抜け、利益を蓄えます。
舞台が2001年に飛び、いよいよ3人の主人公がクロスしはじめたところで、上巻は終わりました。


下巻は、ハゲタカ投資家の青年が、老舗の中堅菓子メーカーの債権を買い取って経営権を手に入れる過程からスタートします。経営に失敗して多額の負債を負っているというのに、この会社のオーナー一族は、自分たちの豪奢な生活を会社のカネでまかない続けることを当然と考えています。
あまりにどん欲で身勝手なオーナー一族の姿を見せられるうちに、なんだかハゲタカ青年が正義の味方のように見えてくるから不思議です。


「そうだ、そんなごう慢なやつらは会社から追い出してしまえ!」


労働組合や他の関係者のあと押しを得ながら青年がオーナー一族を追放し、読者は青年が悪人ではないことを確信します。


青年は次のように指摘します。
  経済成長自体は、間違いなく日本が世界に誇れたことですから。
  ただ問題は、その翳りを見落としたことであり、それ以上にバブル
  以降に何もしなかったことです。


つづいて、栃木県の代表的地方銀行である足助銀行の破綻をきっかけに、中禅寺湖、日光を舞台にした、老舗ホテル経営権の攻防がスタート。ホテルを手に入れようとするハゲタカファンドの青年と、老舗ホテルの経営再建に腐心する女性主人公が対峙し、いよいよ、全ての伏線がつながりはじめます。
上巻ではピアノに近寄らなかった青年がピアノの名演奏をかなでることで物語が展開しはじめ、父親の割腹自殺の真相がとうとう明かされます。ホテル買収のゆくえと、ハゲタカ青年の胸に去来する想いとは……。


上巻で感じた名作の予感を裏切らない終章でした。
下巻だけで300ページ以上ある長編が、不思議とが長く感じません。


さて、8月5日のブログで『ハゲタカ 上』を取り上げたとき、同名のテレビドラマが再放送されるとお知らせしました。
このNHKドラマは6回シリーズなのですが、初回の再放送は録画したものの、第2回目を確認していませんでした。2月は毎週土曜日に放送したのだから、再放送も週に一度だろうと油断していたら大はずれ。毎日一話を再放送していたのです。
気づいたときには手遅れで、結局、初回と最終回しか録画できませんでした。


でも、せっかく録画したのだからと、下巻を読み終わったのを機に見始めました。すると、冒頭のテロップに「原作『ハゲタカ』『バイアウト』」と表示しています。
どうやらこのドラマ、『ハゲタカ』の続編の『バイアウト』も原作にしているようです。

しかたありません。このドラマを見るのは、続編の『バイアウト』を読んだ後にすることにしましょう。


尚、私が愛読している書評ブログ『ホンスミ!』発行人の中島駆さんが、『バイアウト』の文庫版『ハゲタカII』の巻末解説を執筆しておられるそうです。


『ハゲタカII』を読まれる方は、中島さんの解説もお楽しみに。