副題:禁じられた数字 下
著者:山田 真哉 出版社:光文社新書 2008年2月刊 \735(税込) 242P
山田真哉さんは、3年前に出版した『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』で一躍ベストセラー作家になりました。
山田さんは有名になる前から、会計の知識を分かりやすく解説することをめざす本を出していて、私も『女子大生会計士の事件簿』を読みました。
『女子大生の……』は、現役女子大生で公認会計士の主人公が事件に巻きこまれて謎を解明していくストーリーで、物語を追っているうちに会計の知識が知らず知らずのうちに身につくという趣向です。主人公の名前が「萌美」というコテコテの設定が好きで、私もブログに紹介記事を書いたりして応援したものです。
ですから、『さおだけ屋……』が出たときも、すぐに書評を書きました。
ファンの心理は不思議なもので、その後、あれよあれよとベストセラーになるにしたがって、なんだか山田さんが遠くへ行ってしまったように感じます。
しばらく山田さんの本には手を出さなかったのですが、たまたま本書を友人からプレゼントされたので、旧友に再会する感覚で読ませてもらいました。
※ 『女子大生会計士の事件簿4』はこちらを参照ください。
※ 『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』はこちらを参照ください。
本書のために、山田さんは「禁じられた数字」というキーワードを作りました。
「禁じられた数字」の定義は、
「事実なのだろうけれど人の判断を惑わせる数字」
ということです。
この定義を具体化するため、山田さんは、「禁じられた数字」の4つのパターンを挙げました。
4つのパターンとは、
- その1 ―― 作られた数字
- その2 ―― 関係のない数字
- その3 ―― 根拠のない数字
- その4 ―― 机上の数字
です。
経営の現場でこれらの困った数字たちが登場すると、経営者が判断ミスを犯す要因となり、社員全員の迷惑になります。
そんな迷惑な数字が出てくる原因はいくつもありますが、山田さんが指摘しているのは経営計画がひとり歩きして「計画信仰」になっている、ということです。
年度末になると道路予算を使いきるために、あっちでもこっちでも道路に穴を掘っている、と批判されることがありますが、民間企業も「計画」に合わせることを重視するあまり、ムダやムリがまかり通っています。計画を重視しすぎると、目先の利益にとらわれて長期的な利益を失う行動を取ることにもなりかねません。
筆者の山田さんは、会計士として、これらの禁じられた数字たちと日夜格闘しているのでしょう。
本書の主題と離れますが、山田さんがクライアントとの何気ないやりとりに気をつかっている様子がかいま見られる場面がいくつかありました。
たとえば、経営上の判断に意見を求められたとき。「べつにいいと思いますよ」と応えてもよいけれど、それでは適当な返事と思われてしまい、信頼も薄れてしまう。そこで、困ったときの「費用対効果」とか「二分法による論理的(に見える)会話」を駆使してもっもとらしい意見を言っておけば、会計士として格好もつくそうです。
こんな有名作家になっても、本業では、やはりそれなりに苦労と工夫があるんですね。
ついでに、もうひとつ主題から離れたことを紹介すると、本書では理解を助けるためのケーススタディがドラマ仕立てになっていて、そのなかに『女子大生会計士の事件簿』で活躍した「萌ちゃん」も再登場していました。
山田さんは、この下巻の「はじめに」のなかで、次のような予告をしました。
私は本書で、あるビジネス常識にNOを突きつけ、
それらをひっくり返すつもりです。
「あるビジネス常識」とは何か。
山田さんは、そのビジネス常識をひっくり返すことに成功したのか?
答えは、読んでのお楽しみに取っておきましょう。
また、本書には「上巻を読まずに、下巻から読みはじめても大丈夫です」と表紙見返しに書いてあります。
上巻はこの下巻のための伏線のようなものですから、先にこちらを読むと、早く山田さんの結論を知ることができますので、忙しい方には、下巻の本書だけでもお勧めです。