厚黒学入門


副題:中国人の世界観、人間観に学ぶ
著者:李宗吾/著 葉室早生/訳 矢張岳史/編
出版社:ランダムハウス講談社  2008年8月刊  \1,575(税込)  189P


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先週、清朝末期に散った女性革命家を描いた小説『秋瑾 火焔の女』を取りあげた。
今日取りあげる『厚黒学入門』著者の李宗吾も、秋瑾とほぼ同じ時期に生まれた人物である。清朝末期から民国のはじめにかけて中国の言論界で活躍し、第2次世界大戦のさなかの1943年に没している。


本書の題名「厚黒学」は「ずぶとくはらぐいがく」とルビがふってあり、世の中で成功する秘訣は「厚い」ツラの皮と腹の「黒さ」である、と断定する処世術のことである。
救国の熱情をたぎらせた女性革命家と違い、なんと身も蓋もない。まるでマキャベリのようだ。


しかし、実際に中を開いてみると、どうも真剣さが感じられない。
本書に収められているのは抜粋だが、上巻の「厚黒学」、中巻の「厚黒経」(ずぶとくはらぐらいおきょう)、下巻の「厚黒伝習録」(ずぶとくはらぐろくいきるひとつ)、いずれも大仰なもの言いをしている。


はは〜ん。ぜんぶパロディーなんじゃない?


特に、中巻の「厚黒経」は中国の知識人なら誰でも知ってる有名な文章のパスティーシュだ。
たとえば、朱子四書集注の文章「かたよらないのを、中といい、かわらないのを、庸という……」をもじって、「薄くないのを厚といい、白くないのを黒という……」と書いている。漢籍の素養のとぼしい人間が日本語へ翻訳した文章を読んでも、今ひとつ面白さがストレートに伝わってこないが、当時の中国の知識人がこれを見れば、クスリと笑ったことだろう。


そういえば、文筆家の著者が上巻「厚黒学」を「かつて英雄豪傑になりたかった」ということからスタートしているのも変だし、諸子百家や多くの歴史書を徹底的に読んでもダメだったのが、三国志を読んだらひらめいたというのもおかしい。
そもそも、これが帝王学だとすると、新聞連載で一般人に広めようとするはずがない。


そうか。やっぱり全編パロディだったのか。


本書の冒頭には、日本で本書のブームがかつて2度あったことを訳者が解説し、しかも、その2度のブームと現代社会の類似性から、今こそ本書が広まるべき3度目のタイミングである、と強調している。


これも、また「おちゃらけ」かな?


そういう目で見ながら読み進んでいくと、「この人たち、案外、本気なのかもしれない」と読めてくるから不思議だ。


さて、本気とも冗談ともつかないこんな本から、あなたは何かを掴むことができるだろうか?