著者:真山 仁 出版社:ダイヤモンド社 2004年12月刊 \1,680(税込) 368P
バブルがはじけた1990年代の終わりころに「ハゲタカファンド」という言葉が登場したことをご記憶でしょうか。
本書は、そのハゲタカファンドを題材にした経済小説です。
経済小説というのは、ストーリーを楽しんでいるうちに、背景となっている経済問題の知識が知らず知らずに身につく利点があります。
この本の題材も同じです。
私にとって「ハゲタカ」は生半可な理解しかしていない言葉で、この本を読むまで、ハゲタカファンドがどんな存在で、なぜ「ハゲタカ」と呼ばれているのかを知りませんでした。
覚えたての知識を披露すると、バブルがはじけて不動産価格が下落し、1990年代後半に、多くの企業が経営困難に陥りました。銀行から借りたお金の元本どころか利子も払えなくなった企業の債権は回収見込みのない「不良債権」と呼ばれ、銀行の経営まで圧迫するようになります。
日本の経済再生をめざす政府が銀行の不良債権処理を強くすすめ、その流れに乗った外資系のファンドが企業の債権を買うようになりました。採算の悪い部門をリストラし、業績の良い部署が順調に利益を出すようになると、再生した会社の株は信じられないような高値がつきます。
こうして外資系ファンドは短期間で巨大な利益をあげますが、瀕死の企業を食い物にするイメージは屍肉を漁るハゲタカを連想させ、ハゲタカファンドと呼ばれるようになりました。
本書は、経済小説の通例として、不良債権とは何だったのか、ハゲタカとはどういう存在だったのかを分かりやすく教えてくれます。
しかし、それだけではありません。人間ドラマの部分もよく書き込まれていて、企業を立て直そうと命を賭ける人々と不良債権でポロ儲けするファンド側の主人公が織りなす物語から目が離せません。
本書はバブルの崩壊直前の1989年からスタートします。
冒頭、なぞの人物が「おのれ! 大蔵省!」と叫んで割腹自殺します。場面はニューヨークに飛び、なぞの人物の息子と思われるピアニスト志望の青年が登場。アルバイトでバイヤーをやっているうちに投資家としての才能を開花させた青年が、父の割腹自殺の知らせを聞いて、ピアノを捨ててハゲタカ投資家になることを決意します。
他に、銀行の仕事に限界を感じて企業再建家を目指すようになったエリート銀行員や、親の放漫経営に厭気がさしつつも、実家のホテルの経営危機を救おうとする女性主人公も登場します。
ハゲタカの鮮やかな手腕が発揮され、青年は安く企業を買って高く売り抜け、利益を蓄えます。
舞台が2001年に飛び、いよいよ3人の主人公がクロスしはじめて……。
続きは下巻を読んでのお楽しみ、ということになりました。
ぶ厚い本なのに、読者を飽きさせません。
人物の生き方にも深みを予感させます。
読み応えのある書き手を見つけました。
以下、この本の周辺情報をお伝えします。
著者の真山仁さんは1962年大阪生まれ。同志社大学卒業後に読売新聞に入社しましたが、89年に退職しています。2003年に大手生保の破綻危機を描いた『連鎖破綻ダブルギアリング』を別のペンネーム(共著)で刊行したあと、本書でデビューしました。
『連鎖破綻――』は高杉良氏が絶賛し、本書もNHKでテレビドラマになりました。経済小説界に大型新人登場というところでしょうか。
その真山氏に関連して、近くテレビ放送が2つあることを見つけました。以下の通りご紹介します。
ハゲタカ再放送
NHK総合テレビ8月19日(日)夜9時50分スタートだそうです。今年2月に放送したときは6回シリーズだったので、今回も6回シリーズと思われます。