チーズの値段から未来が見える


副題:日常感覚で読みとく経済
著者:上野 泰也  出版社:祥伝社  2008年4月刊  \1,470(税込)  250P


チーズの値段から未来が見える    購入する際は、こちらから


僕が今住んでいるマンションを購入したのは、1990年のことだった。
不動産価格が高騰し、「もう少ししたら普通のサラリーマンは自宅を購入できなくなるんじゃないか」というムードが世の中に流れていて、「これが最後のチャンス」と思い詰めた結果、今の物件を購入したのだ。


後から考えれば、不動産価格が永遠に値上がりし続けるわけはない。まさにバブル経済の一番ピーク時に僕は生涯で一番高い買い物をしたことになる。
その後の価格下落に伴う資産価値の減少、当時の住宅金融公庫の年利7.3%の負担のつらさなど、僕と同じ苦境を味わった人はあっちにもこっちにも居ると思う。


我が家のトホホな不動産事情はさておき、経済の先行きを見通すことは大切だ。
よーく考えなければならない。お金は大事なのだから(笑)。


本書の著者の上野氏は、みずほ証券のチーフエコノミストという肩書きで経済の予測を行っている。証券会社の経済予測というと、「この株は“ウリ”か“カイ”か」など、目の前の株式市況の予測しているように思ってしまうが、上野氏の仕事は短期予測ではないし、予測対象も株式がメインではない。経済指標や金融・財政当局の動きをもとに金利や為替の先行きを見通すのが主業務だ。


新聞やテレビで経済見通しを偉そうに語っている経済評論家は多いが、視聴者はいちいち内容を覚えていないので、その予想が当たったか外れたかを検証することは少ない。予想が外れても問題はない。
一方、証券会社のエコノミストの予測が当たるか外れるかは、実際に資金運用している顧客にすれば大問題だ。顧客から常に厳しい評価を受ける宿命にある業界に上野氏は所属している。予測結果がすべてのこの業界で、上野氏は6年連続で人気調査第1位を獲得している実力者らしい。(『日経公社債情報』の債権アナリスト・エコノミスト人気調査のエコノミスト部門で2002年から2007年まで第1位)


その経済予測のプロが未来予測の方法を教えてくれるのが本書である。


上野氏の持論では、今の日本経済には「3つの特徴」がある。
その3つとは、

  • 輸出主導
  • 根強いデフレ圧力
  • 「格差型景気」


である。


日本経済の将来を考えたとき、「個人消費」「設備投資」「輸出」のうち、景気を牽引する要素は何だろう。
上野氏はまず「個人消費」を分析する。

  • 日本は人口減少時代に突入している
  • 資産の大幅な値上がりも見込めない(地価はようやく下げ止まってきたが都市と地方の格差が大きく、株価は上値が重く不安定)
  • 借金については、慎重に行おうとする国民性に基本的な変化はない


したがって、「個人消費」が経済を主導するのは難しく、「設備投資」も減速している。日本経済を牽引するのは、3つめの「輸出」しかない


結論だけ聞くと、誰でも言えるような気がするが、上野氏の真骨頂は、日常感覚で読み解くこと。書名にもあるとおり、スーパーで買い物するときチーズなどの食品価格の変化をウォッチしているし、ガソリンスタンドの値札を2〜3ヵ所チェックする。
こうした地道な努力の結果、チーズが値上げを発表したばかりの2006年3月、上野氏は「チーズの値上げは浸透・定着しにくいだろう」と予測した。そして、みごとに的中させた。


最近、チーズはともかくバターの品不足が顕著だ。値上がりどころではなく、買いたくてもスーパーに置いていない。かつてのトイレットペーパーのようにパニックが起きないのが不思議なくらいだ。マーガリンや「バター風味」で間に合わせることができるからか。


最後にひとつ、日本経済の大きな流れについての上野氏の予測を紹介しておく。
日本の株や円がお買い得だと思う投資家が、もし日本への投資にメリットを感じなくなったりリスクを感じるようになった場合、債権・株式・円のいずれもがいっぺんに安くなってしまう「トリプル安」になる可能性がある。
これを「資本逃避(キャピタルフライト)」と呼ぶが、上野氏の分析と予測によれば、日本の財政事情は徐々に改善しつつあり、今後も「キャピタルフライト」が起こる可能性は小さい。


しかし、本書が店頭に並びはじめた3月下旬、日経新聞は巨大機関投資機関である企業年金が投資先を外国株にシフトしたと報じていた。
先のことは分からないものだが、さてどうなっていくのか。それによって何か行動を変えようにも、僕はローン返済優先なので、投資資金を持っていないのだが……。