銀翼のイカロス


著者:池井戸 潤  出版社:ダイヤモンド社  2014年7月刊  \1,620(税込)  373P


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昨年7月からTBS系で放送されたテレビドラマ「半沢直樹」は、9月22日に放送された最終回の視聴率が40%を越え、国民的ヒットとなった。


ピンチに続くピンチをあざやかにすり抜け、勝利を確信して油断しているかたき役を完膚無きまでに叩きのめす。
勧善懲悪を絵に描いたような単純なストーリーが受けたのだろう。


水戸黄門の「この印籠が目に入らぬか!」が視聴者の溜飲を下げたように、半沢直樹のセリフ「やられたらやり返す。倍返しだ!」が正義の鉄槌を予感させ、「倍返し!」は流行語となった。


ふだんドラマを見る余裕のない僕も、なぜかこのドラマは第1話から見ていた。
「おいおい、そんなに都合よく解決しちゃうかよ!」とツッコミを入れながらも、毎回の放送を楽しみにしていた。


TBSには続編を望む声が数千件寄せられたのだが、出演者のスケジュール調整が難しくすぐに続編は制作できない、という報道も目にした。


じゃ、原作で続編を読んでしまうことにしよう! と本書を手にした。


本書は、ドラマの原作になった『オレたちバブル入行組』、『オレたち花のバブル組』の続編である『ロスジェネの逆襲』の、もうひとつ次の続編。累計375万部売り上げた半沢直樹シリーズの最新作である。


ドラマの最終回で関連会社への出向を命ぜられた半沢直樹は、粉飾決算をあばいた功績を認められ、『ロスジェネの逆襲』の最後の場面で東京中央銀行本社へ復職していた。


めでたく営業第二部次長に戻った半沢が担当することになったのは、巨大航空会社の帝国航空だ。


審査部という別の部署が経営危機に陥った帝国航空の再建を担当していたのだが、業績悪化に歯止めがかけられない状況がつづき、頭取の意向で審査部から営業第二部へ担当替えが実行されたのだ。


こんどこそ本気で再建するよう帝国航空の経営陣に説き、半沢たちが作った修正再建計画が採用されると思った矢先、衆議院選挙の結果、政権交代が行われ、情勢が変わる。


新しく国土交通大臣に就任した白井大臣は、就任記者会見で帝国航空の再建プランを白紙撤回し、「帝国航空再生タスクフォース」を立ち上げることを宣言したのだ。


タスクフォースに呼び出された半沢直樹が突きつけられたのは、7割の債権放棄だった。


……なんだか、ほんの5年前に起こった政権交代とJAL再生タスクフォースを連想させる内容である。
実際のJAL再建は企業再生支援機構に引き継がれ、JAL再生タスクフォースは解散するのだが、フィクションである『銀翼のイカロス』の物語はどう展開するのだろう?


わくわくしながらページをめくる。


このあと、銀行内の不正融資と隠蔽工作金融庁ヒアリング、政治家の介入など、次々とピンチがおとずれ、ひとつひとつ半沢直樹が逆転していくのだが、くわしく紹介すると本書を読む楽しみがなくなってしまうので、あとは割愛させていただく。


おねえキャラの黒崎検査官や、貫禄たっぷりの中野渡頭取のセリフを読んでいると、ついテレビドラマの片岡愛之助北大路欣也の言い回しが耳に響いてくる。


ドラマを見た人は、続編を見るのと同じくらいの満足が得られるはずだ。


ひとつだけお断りしておきたいのは、『銀翼のイカロス』に半沢直樹が家でくつろぐ場面は出てこないし、ドラマで上戸彩が演じた奥さんの半沢花も登場しない。


原作の半沢直樹は、仕事ひとすじのカタブツとして描かれているのである。