年収崩壊


副題:格差時代に生き残るための「お金サバイバル術」
著者:森永 卓郎  出版社:角川SSC新書  2007年10月刊  \798(税込)  205P


年収崩壊―格差時代に生き残るための「お金サバイバル術」 (角川SSC新書)    購入する際は、こちらから


森永さんは、5年前に「年収300万円時代」というショッキングなことばを世に送り出して有名になった経済評論家です。
お金持ちに優しいアメリカ型政治を行うと、収入格差がますます拡大するという主張を展開してから5年。いまや年収300万円を維持することも困難な社会になりつつある、という暗い話から本書ははじまっています。OECD経済協力開発機構)が2006年に発表した報告書によると、2000年時点の日本の貧困率は13.5%で、世界一貧困率の高いアメリカ(13.7%)に迫っているというのです。


成果主義の導入で、会社内の“できる人”と“できない人”の収入に差ができるのも問題ですが、森永さんが問題にする格差は、もっと構造的な問題です。
森永さんの挙げた数値によると、2002年第一四半期に28.7%だった正社員比率が5年後には33.7%になりました。企業は利益を増やすための人件費削減の一環で、正社員をパート社員や派遣社員などの非正社員への置き換えをつづけているのです。
この結果、GDP統計の「雇用者報酬」の額は、2002年第一四半期の268兆円から2007年第二四半期は263兆円に減りました。(1.8%、5兆円の減)経済が5%も成長している時期に、はたらく人への報酬は、全体的に減らされていることがわかります。


企業は、グローバル競争に勝ち残るための方策で、しかたのないこと、と主張しますが、森永さんはGDP統計で反論します。
2001年度から5年の間に雇用者報酬が8兆円減らされ、企業の利益(営業余剰)は10兆円増えました。グローバル競争に勝ち残るため、製品価格を低くするなどの努力をしたのなら、企業の利益はもっと少なくなるはずです。
正社員を減らし、パート社員や派遣社員を増やしてまで増加させた利益は、実際には株主への配当を3倍に増やし、役員報酬を2倍以上増やすことで使われてしまいました。こうして、社会全体で給料の安い非正社員が増え、株の配当金で暮らす大金持ちや会社役員にはうれしい社会になるように「構造改革」したのが実態なのです。


この事実を再確認したからといって、森永さんは「金持ちからお金を取り戻せ!」と「革命」を総指揮しているわけではありません。「構造改革は国民が選択した政策なのだから、後戻りさせることは不可能」と割り切り、逃げずに人生設計に取り組みましょう、というのが本書の姿勢です。


具体的に森永さんが教えてくれる一つめは、経済評論家らしく資産運用です。日銀が金利を上げはじめたことを意識して「金利上昇局面での資産運用」を教えてくれたり、「うまい話ばかりではないFX」等では危険分散も教えています。


もう一つの本書の柱は、お金がなくても定年後を楽しく生きるための様々な工夫を述べていることです。楽しみながら節約をつづけるコツがメインですが、根底にあるのは、がんばらないことの大切さです。
「いかに人生を楽しむか」を考えつづけたヨーロッパ人がたどり着いたのが、「何もしないでボーッとしていることこそ、最大の幸福」という逸話を紹介するあたりに、森永さんの人生観も現われています。


さて、森永さんの本を取りあげたのは、2年半ぶり。
『辞めるな!キケン!!』をおととし2月21日のブログで紹介して以来です。
森永さんの経済評論は一風変わっていて、当時は「小泉内閣が続けば、日本に恐慌が起きる」なんて物騒なコメントも口にしていました。
小泉内閣内閣は長期政権になったのに、日本には恐慌が起こりませんでしたので、森永さんの見通しは外れました。
でも、経済見通しの当たり外れを超えて、私は森永さんが大好きです。その理由はふたつあって、ひとつは、テレビやラジオでのコメントが常に庶民の目線から発していること。格差を拡大する政策には反対! 大企業やお役人に優しい政治は間違っている!という論をとなえているのです。
もうひとつの森永さんを好きな理由は、おデブであることを悩みつつも、「脂(あぶら)が一番好き」を公言してカロリーたっぷりの食事を取り、ふっくらした体形から幸せ感を発しつづけていることです。


今回の本でも、「おわりに」のいちばん最後に、次のような森永さんらしいひとことを見つけました。


  そこそこに稼いで、ほどほどに暮らし、何か熱中できるものを持つ。
  それが幸せへの道だと思うのです。


実際の森永さんは、「そこそこ」ではなく「バリバリ」稼いでいて、ちっとも家に帰らない生活をしているようです。それでも「森永さんは庶民の味方だ」と納得させるのが、あの笑顔です。


森永ファンにはたまらない一書でした。