著者:日垣 隆 出版社:幻冬舎新書 2006年11月刊 \756(税込) 212P
日垣氏の本を取り上げるのは、これで4冊目です。
『売文生活』は、「ちょっとシニカルな著者の語り口が秀逸」と紹介しました。
『世間のウソ』のレビューには、「後遺症として多少皮肉っぽくなるかもしれませんのでご注意ください」と書いています。
『どっからでもかかって来い!』では、「決してお友達にはなりたくありません」とまで書きました。
それなのに、また読んでしまいました。
イヤな奴だけど、くやしいけれど、この人の文章に引きつけられるのです。
今回も、日垣氏のごう慢な口調が満載です。
- 「すぐに稼げる」というタイトルなのに、「最低1万時間はやり続けなければならない」と読者を突き放す。
- おまけに、タイトルを決めたのは編集部だ、とうそぶく。
- お前らに教えてやるよ、という上から目線でものを言う。
- インターネットで見つけたアマチュアの文章を悪文の見本として徹底的にこき下ろす。
その他、何の準備もなく読みはじめた人を怒らせるトラップが、あっちにもこっちにもしかけてありますので、アマゾンのカスタマーレビューには、頭から湯気をたてた次のような読者の声でいっぱいです。
「読めば読む程、不快になる」
「人間的にも好きになれません」
「著者の文章はせいぜい中の下」
「怒鳴りたくなりました」
「読後感がこれほど不愉快な本は久しぶりです」
いやー、同感です。
本当にイヤな奴です。
でも、ひょっとすると、これも売文稼業の戦略なんじゃないでしょうか。
その証拠に、本書を読んで「すぐに稼げる」と思ったら大間違いですが、文章を書く人にとても参考になるアドバイスが、あちこちに散りばめてありました。
イヤな奴、と思っているときに、ちょっとしたヒントを見つけると、
「後輩を育てることに関しては、意外といい人かもしれない」
と思えるから不思議です。
ちょっとしたヒントとは、たとえば、次のような助言です。
(太字は原著のまま)
- 文章の結論は、少し飛躍させたほうが締まりが良くなります。
- 書評とは①本を買いに走りたくなる、②エッセイ自体がおもしろい、そのどちらかの要素を満たさなくてはなりません。
- 短い文章の前をわざと長くしてリズムをつける工夫をしてみてください。
- おもしろい文章の実態とは、本来結びつかない2つのことを結びつけること
- 文章を書く際にやたらと全力投球はしないということも大事なことです。
- 読者をリピーターにしていくためには、文章に中毒性を織りこむことは欠かせません。
- 今後は「長い文章を書ける」ライターしか生き残ってはいけないでしょう。
興奮したアマゾンのレビュアーは見逃していますが、これほど具体的アドバイスをしてくれる文章読本を私は初めて読みました。
私にとっては実用的。しかも、また日垣氏の文章を読みたくなる本でした。「文章の中に覚醒剤のようなものを入れこむ」という日垣氏の戦略に、まんまとはめられたようです。
最初から「毒舌」と覚悟して読めば、得るものが多いことを保証します。
(読んでいるうちに、もし頭にきてしまったら、あなたの覚悟が足らないのです。きっと)