ライブドア監査人の告白


副題:私はなぜ粉飾を止められなかったのか
著者:田中 慎一  出版社:ダイヤモンド社  2006年5月刊  \1,680(税込)  234P


ライブドア監査人の告白


ライブドア元監査人が事件を回顧・検証した内容です。


事件の渦中にいた人間の証言です。興味津々で手にとりましたが、やはり、著者をうさん臭く思う先入観がぬぐえません。


  すべてをライブドアの責任にして、自分は潔白だ! と自己弁護するつもり?
  いったい、何のために本なんか出すの?
  ひょっとすると、自分が逮捕されないための言い訳なんじゃないの?


そんな気持ちで読んでいると、ライブドアの不正会計の手口を詳しく述べている内容も、どこまで本当なのか疑問に思ってしまいます。
ですから、エピローグに「公認会計士の資格を返上することにした」と書いてあるのを読んだときには、背筋がゾクッとするほど驚いてしまいました。


ライブドアの不正を未然に防げなかったのは、監査人の責任を全うできなかったことを意味する。だから、自分なりのケジメをつけなければならない。と、著者は公認会計士資格を返上しました。
本書は自己弁護のために書かれたのではなく、どうやら、後世に教訓を残すために書かれたようなのです。
この厳粛な事実を念頭において読み返すと、本書は不正会計を試みるクライアントと監査人の戦いの記録として読むことができます。


ともかく自社株の時価総額最大化を目指す経営層は、今までにない粉飾方法を考え出します。
古典的な「架空売上」という粉飾は、会社のお金は一向に増えないのですが、ライブドアの架空売上は、巡りめぐって手元の現金が増えました。会社のお金が増えているのだからやってもかまわない、といった発想がライブドア首脳陣の感覚を麻痺させたのではないか、と著者は推測します。
しかも、どうせ監査人には分かりっこないというナメた態度に、著者は「やってやろうじゃないか」と腹を決めます。文字通り火中の栗を拾うことになる監査責任者に就任することを決め、著者はライブドア首脳陣の闇の解明を試みます。
ある程度までライブドア不法行為に迫り、もう不明朗な会計処理はしないことを約束させることに成功しますが、時すでに遅く、検察庁が動き出していました。


事件が収束し、自分なりのケジメをつけた著者は次のように書いています。
  堀江氏のことを、事件前までは“時代の寵児”ともてはやし、事件後は
  手のひらを返したようにこき下ろすという、マスコミの一貫性のない姿
  勢にも、ジャーナリズムのあり方として強く疑問を感じます。


まだまだ私の先入観が一掃されたわけではありませんが、この一文には、強く共感します。
発刊から1年近く経ち、移り気なマスコミにこの事件が取り上げられる場面は少なくなりました。そんな今だからこそ、一読してみてはいかがでしょうか。