あいるさん、これは経費ですか? 東京芸能会計事務所


著者:山田 真哉  出版社:KADOKAWA(角川文庫)  2014年11月刊  \518(税込)  231P


あいるさん、これは経費ですか? 東京芸能会計事務所 (角川文庫)    ご購入は、こちらから


つぎつぎと起こる事件が解決するのを楽しんでいるうちに、会計についての知識が身についてしまう、という会計お勉強小説である。


著者の山田真哉氏は、160万部のベストセラーとなった『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』の著者である。
本業の公認会計士・税理士の仕事を核として、『さおだけ屋……』のほかにも、会計を分かりやすく解説する本を手がけている。


『さおだけ屋……』の大ヒット前から書いていた「女子大生会計士の事件簿」シリーズは僕もおもしろく読ませてもらった。


シリーズの「4」を読んだとき、半年もしないうちにベストセラー作家になるとはしらずにレビュー文を書き、

「あまり期待していなかった分だけ、とても面白く読ませていただきました」

と結んだ。


今から思うと、汗が出そうになる。
山田さん、その節は失礼いたしました m(_ _)m


(僕のレビューは こちらこちら


「女子大生会計士の事件簿」シリーズを終了させたあと、山田氏は、やはり小説を通じて税金について解説する「フラン学園会計探偵クラブ」シリーズを書きはじめ、3つ目のシリーズとして、この小説を構想した。


主人公の天王洲あいるは、25歳の会計事務所所長。芸能人専門をかかげる「東京芸能会計事務所」を率いている。


経歴や事務所の設立経緯は一切非公表だが、ひとつずつ事件を解決していくうちに、実は元人気アイドルで、とある事情で芸能界を引退し、会計事務所をはじめることになった事情が明かされていく。


あいるが会計事務所をはじめた事情のなぞ解きをたて糸にして、一話にひとつの税金問題が解説される。


へぇー、そうなってるんだぁ……、と感心しながら読んでしまったなかで、3番目の「文学新人賞の秘密」の内容を紹介させていただく。



ある日、東京芸能会計事務所に売れないミュージシャンから電話がかかってきた。
興奮した口調で、「賞金に税金がかかるのか、かからないのか」を教えてほしいと言う。


若手社員の竜ヶ水は、よく調べもしないで、「賞金に税金がかかったとしても、そんなに高くない」と答えてしまった。


あいる所長に報告したら、「クライアントの質問にテキトーに答えるな!」と叱られたものの、「賞金が一時所得なら、経費控除のほかに50万円の控除があるし、それ以上の金額だったとしても、所得の2分の1しか課税対象にならないから、他の所得よりも税額はやすくなる」と教えてくれた。


ところが、よく話を聞いてみると、売れないミュージシャンは文学賞に応募して償金3千万円の新人賞をとったとのこと。


同じ文学賞でも、直木賞芥川賞のように、すでに世の中に出ている作品は一時所得になるが、まだ世に出ていない作品は事業所得とみなされる。


経費は控除してくれるものの、それ以外は全額所得とみなされるので、税金は一時所得の2倍以上になる。「そんなに高くない」は、間違った答えになってしまった。


それでも、いままで売れないミュージシャンだったクライアントに大きな償金が入るのだ、と喜んでいたところ、数ヶ月たっても本は出版されず償金も振り込まれない。


「いったい、どうなってのよ!」とあいる所長、竜ヶ水青年、ミュージシャンの3人は出版社にアポなしで押しかけ、社長に直談判した。


出版社の社長から聞き出したのは、やはり税金にまつわる出版社の内部事情だ。


4年前にミリオンセラーを出した出版社は、税金対策として何か経費で落とせるものを考えた結果、償金3千万円の新人賞をはじめることにした。


高額な新人賞は話題になって広告効果もあるから一石二鳥。
新人賞の本が売れたら一石三鳥というおいしい話だったが、おいしかったのは税金対策できた最初の1回だけ。


業績が落ち込んだあとの2回目、3回目は償金を出すのが苦しかった。


4回目の今年、売れないミュージシャンが受賞者になったのは、ある密約の結果だったのだが、あいる所長は密約の内容を察知してしまう。


あいる所長は言う。

「あたしはね、竜ヶ水。いい加減な仕事をするやつが大っ嫌いなのよ。プロじゃないわ。カネをごまかすやすも大っ嫌い。そんなの、真剣に仕事しているこっちをバカにしてる。仕事ってのはね、お金をもらっている以上、一切の手抜きなしの真剣勝負よ。ヒラヒラのスカートをはいたらギリギリのラインで振る! マイク握ったら腹の底から声を出す! そして税金は一円でも
安くする! それがプロってもんよ」


プロとして納得できない密約とは何だったのか。
あいる所長が密約をあばいた結果、償金3千万円の新人賞はどうなったのか……。


なぞ解きとどんでん返しを楽しみながら、税金のしくみが身につくから一石二鳥。


おいしい文庫オリジナル作品である。

関連書籍1


レビューを書くのが遅くなっているうちに、「経費ですか?」シリーズの続編が出ちゃった。


書名:結婚指輪は経費ですか? 東京芸能会計事務所
著者:山田真哉  出版社:KADOKAWA(角川文庫)  2015年3月刊  \518(税込)  237P


結婚指輪は経費ですか? 東京芸能会計事務所 (角川文庫)    ご購入は、こちらから

関連書籍2


あのミリオンセラーのコミック版が出た。


書名:さおだけ屋はなぜ潰れないのか?
著者:山田真哉/原作 マエダマキコ/作画  出版社:KADOKAWA  2014年12月刊  \1,080(税込)  173P


コミック版 さおだけ屋はなぜ潰れないのか?    ご購入は、こちらから