著者:藤原萌実/著 山田真哉/監修
出版社:角川書店 2008年11月刊 \1,260(税込) 142P
以前にこのブログで紹介した『女子大生会計士の事件簿』が12回シリーズのテレビドラマになり、BS−iでつい先日まで放送していました。
このドラマの中で、主人公の藤原萌実が本を出すことになり、実際に書店に並んだのが本書です。つまり、テレビドラマとのタイアップ企画で発売されました。
『女子大生会計士の事件簿』の著者が山田真哉さんですから、どうせこの本も山田さんが書いたんでしょ――というヤボは言わずに、あくまで会計士の藤原萌実さんが書いたという前提で読んでいきましょう。
会計士の資格維持のため、しかたなく一般人向けの会計講座の講師をすることになった萌実さん。教材がつまんない、とブツブツいいながら地下教室のドアをあけたところ、中は真っ暗です。廊下へ通じる扉も閉まったままびくともしません。
突然、暗闇から「汝はここから出ることはできない」という声が聞こえ、萌実と謎の怪人の対決がはじまりました。
怪人が続けて11個の問題を出し、萌実は2つ〜3つの候補の中からひとつ答えを選びます。読者も萌実といっしょに考え、萌実が選ぶべきと思うページへ飛ばなければなりません。
予想が正解の場合は次の問題に続きますが、間違ってしまうとそこでアウト。それっきり怪人の声は聞こえなくなり、二度とこの部屋から出られません。しかたなく巻末の解説を読んだあと、正解のページから再チャレンジする、という趣向の本。
名づけて「会計RPG(ロールプレイングゲーム)」です。
おもしろい! この趣向。
クイズの正解は何か、と、怪人の招待は誰か、という問題を両方考えながら読み進むことができるなんて。
正解の解説をしている萌実さんは自信に満ちてどうどうとしています。
「要はさ、ビジネスなんて知識じゃなくて考え方なんだ、って」
「会計では、現在から未来にかけての金額だけで損得を判断するんだからね」
「会計って平たく言うと、記録して集計して分析することなの」
こういう解説を読んでいると、監修者(?)の山田さんが気をつけた
「数字をほぼ使わずに会計の知恵を伝える」
ことの勘どころが伝わってきそうです。
で、怪人はどんな問題を出題するのか。少しだけ紹介しておきますね。
・レジ横の「レシート不要箱」は
会計的にどう思う?
・CDショップに防犯タグが付いている
本当の理由は?
・「スーツ2着目1000円」の
真の意味は?
・「現金値引」より「ポイント」が喜ばれている
奇妙な理由とは?
・「利用者が少ない道路」でも
作ったほうがいい理由とは?
一つひとつは簡単そうでも、連続正解はとても難しいことです。
「この答えは、正解かなー。でもひっかけのようにも見えるしなー……」迷った末に、私は4問目と8問目、9問目を外してしまいました。
あなたもチャレンジ!
こんな不思議な構成の本をつくった山田真哉。どうも、手持ちのネタを取っかえ引っかえして、新しいことにチャレンジするのがお好きのようです。
そもそも学生時代の専攻は日本史です。大阪大学文学部史学科を卒業して一般企業に就職した後、畑ちがいのはずの公認会計士に合格し、会計士なりました。
監査法人を退社後、企業のCFO(最高財務責任者)や政府の委員に就任したり、経済番組や経済ドラマの監修も行っている、と本書のプロフィールに書かれています。
会計の考え方を分かりやすく物語に乗せて解説する「女子大生会計士の事件簿」を何冊もシリーズ化している最中に『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』が大ヒット。
その後『食い逃げされてもバイトは雇うな』の下巻として『「食い逃げされてもバイトは雇うな」なんて大間違い』を書いて、読者を煙に巻きました。
「女子大生会計士の事件簿」シリーズを6巻で完結させたあとに書いた本書は、意表をつく「RPG書籍」という新しいジャンルにチャレンジしています。まるで「わらしべ長者」のように、自分の持ちものを次々とお宝と変えて
います。
しかし、新しい試みは失敗を生むこともあるらしく、ホントかどうか分かりませんが、「このままだと1万部いきませんね」と角川の編集部に言われてしまったそうです。
転んでもタダでは起きない!
山田さんは、書店営業(書店を回ってたくさん売ってもらう活動)を敢行することにし、その一部始終をYouTubeで配信しました。伝説の深夜番組「水曜どうでしょう」を限りなくリスペクトしたという番組は、その名も「本屋でどうでしょう」です。
私も見てみましたが、脱力系の、たる〜い雰囲気がいい味出してました。
個人的に面白かったのは、応援にかけつけた人のほとんどが自分の著書をカメラに向けるところです。
「おいおい、本の宣伝かよ!」
しかも、登場した著者の皆さん、私のブログで紹介した人ばかりですよ。
- 『君を幸せにする会社』著者の天野敦之さん(私の紹介ブログはこちら)
- 『仕事はストーリーで動かそう』著者の川上徹也さん(私の紹介ブログはこちら)
- 『問題は「数字センス」で8割解決する』著者の望月実さん(私の紹介ブログはこちら)
- 『女性のための ハッピー転職バイブル』著者の山下さすがさん(私の紹介ブログはこちら)
このYouTube番組の映像は、山田さんご自身が編集の一部を担当したそうです。
映像で笑いを取るにはかなりの技術が必要と思いますが、山田さん、いい線いってましたよ。
ドラマの監修も行っている山田さん、ひょっとすると次は映像を作るのではないでしょうか。
そういえば、本書で萌実は、何の脈絡もなく言ってまいました。
「カンヌの映画祭には『ある視点部門』ってのがあるわね」
ムムッ!
山田さん、次はカンヌ映画祭ですか?