iモード以前


著者:松永 真理  出版社:岩波書店  2002年7月刊  \1,470(税込)  225P


iモード以前


1月26日のブログで『ケータイの未来』を取り上げて、夏野剛氏といっしょに「iモード」を立ち上げた松永真理さんの本を読みたくなりました。『iモード事件』は読んだことがあるので、今度は『iモード以前』です。
本書『iモード以前』は、2000年7月発売の『iモード事件』がベストセラーになった2年後に上梓されています。


著者は「就職ジャーナル」や「とらばーゆ」の編集長をしていました。また、他に『なぜ仕事をするの?』や『シゴトのココロ』という本も出していますから、仕事についていつも「問い」を持っています。
本書の場合は、「どうして人は一生懸命に仕事に励むのか」ということ。なかでも、自分自身が、どうして働き者になってしまったのだろう? という疑問を入口にかかげ、本の中で答を出す構成になっています。


少女時代の著者は、「真面目」とか「コツコツ」という言葉に縁のない子どもだったそうです。親の手伝いをするとか、学業に励むという生活を送ったことはなく、要領だけがよく、どちらかというと怠けものの部類でした。
そんな自分がいったい何時からこんなに働くようになったのか。
疑問に答を出すために、ひたすら自分の生い立ちを文字にしてみましたが、話がとりとめなくふくらむだけで、答に到達しません。
ある時、自分が社会人生活をスタートさせたリクルートという会社に照準を合わせて書いたところ、それまでバラバラにあったものが面白いようにつながりました。


ふり返って、客観的に見てみると、リクルートは人に揺さぶりをかけ、人を飽きさせないのがうまい会社でした。
  「私はまんまとのせられたのである」
と著者は腑に落ちました。


そんな著者が描くリクルート社は、働くのが楽しくなるような不思議な会社です。
もちろん、世間相場よりも給料が高いこと、平均よりも2割高くすることが就業規則にも明記されているという給与施策が社員満足の一因なのは間違いありません。
しかし、著者が強調するリクルートの良さは、給料よりも「仕事そのものから得られる満足」のほうがもっと重要だと考えることです。


そのために、たとえば、スポーツでMVPの選手を決めるように、日単位、月単位、年単位で最優秀社員を表彰するイベントを設けます。できるだけ差をつけまいとする日本企業のスタイルと違い、わざと差をつけ、スターを生み出そうとするのです。


自分で目標を定め、それに向かって自分を鼓舞していくようなタイプでなくても、知らず知らずのうちに頑張ってしまう。気がついたら、著者は修羅場のまっただ中で奮闘していました。
特に、多くの部下や社外スタッフの希望を一身に背負う編集長となってからは、自分でも気付かなかった力が湧いてくるのを感じました。


そんな著者を、さらなる修羅場が襲います。
リクルート疑獄事件という大波が……。



本書を読んでいると、仕事が人を変える、という当たり前のことにあらためて気付かされます。
もし自分がリクルートで働いていたら……、なんて想像するのも(ちょっとだけなら)楽しいですよ。


私自身は、自分の職場に不満を覚えることの少ない、幸せな仕事人生を送ってきましたが、他人の職場環境を「羨ましい」と感じたことが、一度だけありました。


それは、就職して1年後に、いっしょに大学を卒業した友人と再会した時のことです。
どんな職場で仕事しているかをお互いに披露しあっていたところ、彼の職場では、仕事中にウォークマンで音楽を聞くのが当たり前ということを知りました。


「えーっ。音楽聞きながら仕事していいの?」
「だって、ウォークマンはうちの製品だからね」


そうです。彼が入社したのは、SONYだったのです。


「ヘッドフォンなんかしてたら、電話がかかってきても、気付かないだろ?」
「電話を受ける担当者がいるから大丈夫だよ」


私の職場では考えられません。


もう一つ驚いたのは、ジーンズ姿で仕事をしていることです。
その後、ビジネスカジュアルがブームになり、時にはネクタイを外して仕事するという職場も今は増えてきたようですが、20年前には考えられないことでした。
仕事の内容も知らないくせに、職場の雰囲気だけを「羨ましい」と思ったことを思い出します。