どっからでもかかって来い!


副題:売文生活日記
著者:日垣隆  出版社:ワック  2006年7月刊  \1,400(税込)  261P


どっからでもかかって来い!―売文生活日記


以前、日垣隆氏の『売文生活』を、取り上げたことがありました。(2005年7月19日のブログ参照)
『売文生活』は、夏目漱石の原稿料をはじめ、文章を書くことによって生活すること全般について、いろいろな角度から解明した「原稿料事情」レポートでした。


今日の一冊は、文豪の原稿料を調査した続編……ではありません。
副題に「売文生活日記」とある通り、ライター(売文生活者)である著者自身の日常を綴ったものです。
すべての文章が「×月×日」ではじまるという、まるでブログをそのまま一冊の本にまとめたような構成ですが、著者はプロのライターです。間違っても、無料で日記文を発表したりしません。
本書は、雑誌「WiLL」の2005年1月号から2006年7月号の同名の連載をまとめたものです。


本書を読むかぎり、著者の日常は、ケンカの連続です。よくもまあ、これだけケンカ相手を探して戦えるものです。


なぜだか分かりませんが、著者は、毎日のように何か憤慨する事態にぶつかります。
著者の怒りの一端を紹介すると、
 ○ 他の宅配便会社とちがい、いつまでも客の都合や生活パターンを覚え
   ようとしない某宅配業者
 ○ 自分たちのシステムのミスを客の時間を奪うことで補おうとするお役所
   体質の某銀行
 ○ 店頭で「いらっしゃいませ」の挨拶もできない店主が85%もいて、
   サービスのいろはを弁えない旧パラ(旧態依然のパラダイム)人材の
   宝庫の古書店業界
 ○ 自分たちの給料や印刷会社への支払いは遅らせないのに、著者への印税
   支払いだけを遅らせようとする某出版社
 ○ 「本人のため」と言い訳しながら、本人が希望していない学校に行かせ
   ようとする高校教師
 ○ ふつうに使っていた賃貸マンションを退去する際、なんだかんだと難癖を
   つけて敷金を返却しようとしない強欲大家
 ○ 無灯火自転車を携帯しながら運転して人にぶつかっておきながら、謝ろう
   ともしない大学生。(ひき逃げ未遂で一緒に警察へ行くぞ、と毅然として
   言うと、やっと謝罪した)
 ○ 「何でも一品から高価買い取りします」というチラシを撒いておきながら
   「一品だけじゃ行けるわきゃねえだろ」と電話口で凄む回収業者
 ○ 危険物としてスキーのワックスを巻き上げておきながら、根拠となる
   規則を尋ねると何も提示できず、「とにかくここにサインしてください」
   と飛行機の中まで追いかけてくる某空港の保安業者
 ○ 勝手に郵便を持ち帰って、再配達して欲しければ、自動電話応答機に
   延々と付き合うよう強要する民営途上の某お役所
 ○ 転居届けをコンピュータに入力ミスしながら、指摘してものらりくらりと
   たらい回しを続ける民営途上の某お役所


あまり強烈なので、具体的企業名は伏せておきましたが、本書のなかでは、某銀行も某出版社も実名で載っています。
こんなに実名公表して大丈夫なんでしょうか。……と考えてしまうのは、ケンカの覚悟が定まっていない一般人の考えること。著者は、相手に舐められることが死ぬほど嫌いなファイターなのです。


なにしろ、
  これまで何度も配達証明郵便で抗議を受け、「お待ちしていました。
  ぜひ訴訟をしてください。裁判でいろいろなことを明らかにできるの
  で楽しみです」
と返信すると、なぜかそれ以降ピタリと音信が途絶え
  てしまうのである。淋しい。(太字は原著のまま)
と豪語するほど、連戦連勝です。



あまりに強烈なケンカ生活ですが、副題「売文生活日記」が示す通り、本書には売れっ子ライターの日常や、家族と過ごした休日の話題も載っています。
出版した本の増刷の知らせが来るたびに、「合法的あぶく銭の連鎖にニヤつく」というのは半分照れ隠しとして、骨折しても両手を天井から吊って執筆を続けたというすさまじい気迫、すさまじい量の原稿執筆には、目を見張るしかありません。


失業と同時にフリーライターのスタートを切った著者は、子どもにもお金のありがたさをたたき込む、という教育方針を持っています。
ただ、その方法が尋常じゃありません。
学費は必ず現金を手渡す。そのためには、新潟の大学に行っている子どもをわざわざ東京に呼びつける。というあたりまでは、まだ分からないでもありません。自動的に銀行にお金が振り込まれるだけでは、親への感謝もお金のありがたさも分かりませんから。


著者の金銭感覚教育の次の柱は、実はギャンブル教育です。
そのために、「子どもに2万円ずつ元手を渡した後、家庭内バクチで徹底的にむしり取る」という訓練を施した後、ギャンブルのできるマカオ等の外国にバクチ旅行を敢行します。


決してお友達にはなりたくありませんが、こういう人が近くにいると、何かあったら助けてもらえそうですね。
「普段の私は、自分で言うのもなんですが、穏やかで、年下に対しても、かなり腰が低いと思います」という一面も持っています。


ちょっと遠巻きに著者のケンカ生活を覗いてみてはいかがでしょうか。