アマゾンのロングテールは、二度笑う


副題:「50年勝ち残る会社」をつくる8つの戦略/講談社BIZ
著者:鈴木貴博  出版社:講談社  2006年10月刊  \1,680(税込)  244P


アマゾンのロングテールは、二度笑う  「50年勝ち組企業」をつくる8つの戦略 (講談社BIZ)


著者の鈴木貴博さんは、産業界の戦略を分析する本を何冊か出されています。このブログでも、以前、鈴木さんの『逆転戦略』を取り上げました。(2006年7月21日のブログ参照)
『逆転戦略』は、通信業界の攻防を分析したあと、PHSウィルコム社が通信業界に“逆転”をもたらすのでは? と予測する、なかなか刺激的な本でした。


本書は、特定の業種・業界を分析するのではなく、物やサービスを扱っている産業界全般にあてはまる法則のようなものを解説する内容です。


書名の『アマゾンの……』は、本書の第7章に登場し、章のタイトルは、「なぜアマゾンはロングテールで二度笑うのか」です。
書名自体がweb2.0関連本が良く売れていることを意識したものになっていますが、章のタイトルはあのベストセラー「さおだけ屋」をパクっています。


じゃ、書名と章のタイトルで人目を引くだけの便乗本かと思ったら大間違い。


おもしろい!


競合他社に勝つ戦略というのは、こういうものなんだ。へえーー、ほーー。月並みで申し訳ありませんが、目からウロコの連続でした。


まず、本書に収められている8つの章のタイトルを並べてみましょう。


第1章 なぜイトーヨーカドーはダメになったのか―外部環境から始めるベーシック戦略論
第2章 なぜ松下はマネシナクなったのか―同質化と差異化を考える
第3章 なぜ小川直也インリン様に負けたのか―オンリーワン戦略で勝つ
第4章 なぜ外資系金融マンはBMWを買うのか―上流市場ビジネスを成功させる
第5章 なぜスタバはアメリカンコーヒーを駆逐したのか―下流市場を制するために
第6章 なぜローソンとファミマは上海のコンビニに勝ったのか―中国で成功する鍵
第7章 なぜアマゾンはロングテールで二度笑うのか―Web2.0で儲けるビジネスモデル
第8章 なぜウィンドウズには欠陥があるのか―あえて選んだ不完全戦略


私が日経新聞を読んでいないせいなのか、タイトルの中にはじめて聞く情報が含まれています。
いきなり第1章で「イトーヨーカドーがダメになった」なんて言われて、
「えっ? イトーヨーカドーって、ダイエー西友と違って業績好調じゃなかっの?」
と驚いてしまいました。
鈴木敏文氏の経営手法を礼賛するような本がたくさん出ているのに……。そういえば、最近イトーヨーカドーへ行っても、お客さん少ないですね。


各章の「なぜ……」の答えは、もったいないから書きません(笑)。
どうしても知りたい方は、本書を手に入れてください。


「なぜ……」の答えの代わりに、「上流」と「下流」をターゲットにした市場攻略法を述べるくだりに書かれていた、ヨーロッパの上流・下流分析、日本の上流・下流展望を紹介します。


まず、「上流」から。
ヨーロッパの金持ちは、金持ちとしての歴史が長く、400年も続く富豪一族とか、歴史を通じて広大な地域の領主だったとか、金持ちのキャリアが違います。
その金持ち一族に生まれた人は、「生まれながらにして金持ち」です。生まれたときからお金を稼ぐ必要もなく、庶民的なサービス(ビジネスホテルに泊まったり、ファーストフードを食べたりする)の経験がありません。
そういう歴史の長いヨーロッパのお金持ちと比べると、たとえば日本の新幹線のグリーン車には、マナーの悪い客が多いのが目につくそうです。
マナーの悪さを、高価な商品を購入したことに伴う権利だと考えている小金持ちというのは、歴史が浅い証拠なのですね。


次に、「下流」です。
他国に先んじて国家としての成熟時代を迎えたヨーロッパの国民には、「下流市場の手本」というべき人々も多いそうです。
フランスやイタリアの下流社会の人々は、所得は少なくても自由になる時間がたくさんあり、それだけ友人と語ったり、趣味に没頭したりと、自分のペースでのんびり優雅に人生を楽しむ生き方ができています。
ヨーロッパの「お手本」を見ると、これから日本で拡大する下流の生き方も悪くないのではないか、と著者はいいます。
「決して贅沢な暮しはできないが、自分の身の丈に合った人生を選び、それはそれで構わないという若者」の生活例として、次のような日常を挙げていました。
  マクドナルドで昼食をとり、
  まんが喫茶でインターネットを楽しみ、
  ケータイで仲間と連絡をとり、
  カラオケボックス発泡酒を飲み、
  コンビニで雑誌を買って家に帰る。


個人的な感想を言うと、ここに例示してある生活は、「下流」ではなく、「中流」のように思います。本当の「下流」になったら、ケータイやコンビニはともかく、マクドナルドも、まんが喫茶も、カラオケボックスも利用できなくなります。
健康でも、文化的でもない、最低限の生活しかできない人が増えているのが「下流」問題と思います。
下流生活の例としてマクドナルドやまんが喫茶が出てくるところは、著者が「上流」に足を踏み入れて、庶民感覚を失いかけている兆しかもしれませんよ!……と、ちょっと「上流階級」にひがんでみました(笑)。


もちろん、「中流」の方にも、「下流」の方にもお勧めです。