戦争の克服


著者:阿部浩己 鵜飼哲 森巣博
出版社:集英社新書  2006年6月刊  \756(税込)  261P


戦争の克服 (集英社新書)


戦争の悲惨さはみんな知っているのに、どうして戦争はなくならないんだろう。いったい、戦争をなくすことはできるんだろうか、という問いかけをまとめた対談集です。
問いを発するのはオーストラリア在住作家の森巣氏で、答えるのは哲学者の鵜飼氏と国際法学者の阿部氏です。


本書の企画・立案者の森巣氏は、他にも対談形式の思想書を出しています。「チューサン(中学校3年生程度の知識しか持っていない)階級」に属すると自称していますが、もちろん、これは大ウソ。
前書きからクラウゼヴィッツだのカール・シュミットだの一般人が知らない名前が登場し、文中で「国連憲章武力行使を許している条文」の話題になると、すかさず「第39条と第51条」と合いの手をいれます。巻末の語句の解説だって16ページもあります。二人の専門家にまけないくらい、森巣氏はよーくお勉強しているのです。
それでも「チューサン階級」と名乗るのは、きっと、中学3年生のように「根源的な問いを発する」というレトリックなのでしょう。


森巣氏の問いに導かれて、二人は戦争の起源、戦争論の歴史を述べ、二つの世界大戦、冷戦を経過して、国際法がどのように変遷してきたのかを、くわしく解説してくれます。


最近のアメリカの外交姿勢、ブッシュの戦争に話題が及ぶと、3人の舌鋒も鋭くなり、日本政府に対しても、辛らつな批判が飛び出します。
あっちにもこっちにも噛み付くような発言ですので、読者もおちおちしてはいられません。きちんとした考えをもっている人ほど、どこかで一度は自分の政治信条を批判される展開が待っています。


たとえば、イラク特別措置法に関連して、森巣氏は次のように吠えます。
  いまだに日本のサヨクは、政府が日本を戦争のできる国にしようとして
  いる、なんて主張していますが、まるでわかっていない。日本は今、現
  実にイラクで戦争をしているのです。(中略)完全な戦闘行為です。
  サヨクを批判したから、公平にウヨクも批判します。自衛隊イラク
  出陣したとき、「無事に帰って来いよ」なんて呼びかけることないじゃ
  ないですか。日本のウヨクなら伝統を踏襲して「見事お国のために死ん
  で来い、靖国で会おう!」と胸を張って言わなきゃ(笑)。


本書を読了して分ったのは、国際法は戦争を認めていない、ということでした。戦争は違法なのですから、国際法を守りさえすれば、戦争は克服できるのです。
ところが、冷戦後のアメリカは、国連を無視して自国中心の露骨な戦争を起しており、だれも止められない。


じゃ、どうしたらいいのか。
「終章 私たちに何ができるのか」に、3人の筆者の答えが載ってはいるのですが。


ちょっと難しそうな本です。
眉間にシワをよせてお読みください。