著者:鎌田 實 出版社:河出書房新社 2015年3月刊 \1,080(税込) 181P
(前日のつづき)
2冊目の『「イスラム国」よ』は違う。
帯に「僕は聴診器でテロとたたかう」とある通り、10年間アラブの世界に身を運び、医療支援を実践してきた鎌田實氏が、大感情をこめて次のように訴えている。
読んで下さい。僕が10年間訪ねてきたイスラムの真実を。
買って下さい。現地で苦しむ人々のためにこの本の印税を使います。
考えて下さい。今、日本にできることを。
著者の鎌田氏は、1974年に長野県の諏訪中央病院に赴任し、一貫して「健康づくり運動」、「住民とともに作る医療」を実践したあと、日本イラク医療支援ネットワーク(JIM−NET)というNPOを立ち上げ、この10年間、アラブで医療支援をおこなってきた。
鎌田氏が現地で会ったイスラムの人々は、みんなあたたかく、優しい人たちだった。
一度も嫌な思いをしたことがないし、イスラム教徒に「敵意」を抱いている日本人にも会ったことがない、という。
それなのに、「イスラム国」は後藤健二さんを殺し、日本も敵だ、と主張する。
だからといって、憎悪には憎悪でたたかいたくない。暴力に暴力で対抗するのが唯一の解決策と思わずに、愛の手を差しのべることが大切だ、と鎌田氏は言う。
これだけ聞くと、きれいごとやタテマエを言っているように感じるかもしれないが、鎌田氏は自分を聖人君子の高みに置いて、実現不可能な理想を述べているわけではない。
「イスラム国」の残虐さは人間の行為と思えない、と言う人もいるが、人間だからこそ、こんなひどいことをする。
だれの心の中にも獣はいる。
それは僕自身の心の中にもあることだからこそ、よくわかります。
と鎌田氏は言う。
残虐性と同時に、人間だからこそ、彼らの心のどこかに人間らしい優しい心がきっとある。
僕たちは、医療支援という形で、彼らの心のどこかにある、まだら状の人間らしいあたたかい部分に矢を打ち込みたい、心を揺さぶりたい、彼らの心をあたためたいと思っています。だから10年間、イラクに通って、非軍事の医療支援を続けているのです。
現地に通う鎌田氏は、イスラム国に家族を奪われた人々の苦しみに、耳をかたむける。
イラク北部のアルビルという都市につくられた難民キャンプを歩いていたとき、「私の部屋へ来てほしい」というおばあさんがいた。
3歳の娘が「イスラム国」に連れて行かれた、と話す老女は70歳くらいに見えたが、歳をたずねると43歳だという。生きる力を失い心の病気になってしまった、という彼女は、急に老けこんでおばあさんのような外見になってしまったのだ。
連れて行かれた子どもがどうなるのか、だれにもわからない。
奴隷市場で売られるのか、育てられて兵士の妻にさせられるのか。
鎌田氏には、どうしてあげることもできなかった。
シリア国境沿いの難民キャンプで出会った13歳の少年の部屋を訪れたときのこと。
「お父さんやお母さんはどうしたの」と尋ねると、両親と4人の兄弟たちは「イスラム国」に連れていかれた、という。
兄の一人はペシュメルガというクルド人自治区の治安部隊に入って「イスラム国」と戦っており、残り6人の子どもたちだけで暮らしているのだ。
鎌田氏は、アラブの人々と一緒に泣く。
JIM−NETでは、毎年バレンタインの時期に「チョコ募金」というチャリティー活動をしている。
小さなハート形のチョコーレートをかわいい缶につめて売り、売上げを支援に使う。
今年は「命の花」をテーマに、イラクの白血病の子どもたちに花の絵を書いてもらった。
バラの花の絵を描いてくれたイマーンという女の子は、大腸がんで入院していた。
自分が亡くなることを予感しながら、他の子どもたちが助かることを祈りながら美しいバラの花を描いたという。
絵を描いて3ヶ月後、イマーンはがんが肝臓に転移して亡くなった。
鎌田氏は弔い合戦のように思いながら募金のチョコレートを売り、バレンタインの2週間前には16万個が完売した。医療支援のためのお金が、経費を引いても5600万円以上集まったのだ。
イマーンの家族にお礼の気持ちを伝えるため、雪山の中の小さな村を鎌田氏は訪れた。
彼女の写真が印刷されたカードとチョコレートの缶を見てお父さんは号泣し、おかあさんも、おじいちゃんも一緒に泣いた。
みんなでイマーンの墓参りに行ったとき、お墓の前で今度は鎌田氏が泣いた。
「娘のことを日本人が忘れないで墓参りに来てくれてうれしい」と、またお父さんが泣き出した。
鎌田氏は、これからもイラクの難民キャンプに通い、時に一緒に泣きながら、聴診器1本でたたかうことを宣言している。
昨日(4月23日)の日テレの news every. で放送されていた。
さいごに鎌田氏は、次のように呼びかける。
「イスラム国」よ。
君たちも少しでいいから変わってほしい。
僕たちも、もちろん変わる。一人ひとりがほんの少し変わろう。
格差や差別や孤独を減らして、もっと、すべての人が住みやすい地球にしよう。
そんな日が来るのを楽しみに待っています。