目標を突破する実践プロジェクトマネジメント


副題:あなたのプロジェクトは必ず成功する
著者:岸良 裕司【著】 村上 悟【監修】
出版社:中経出版  2005年12月刊  \2,415(税込)  223P
CD‐ROM付 目標を突破する 実践プロジェクトマネジメント


いやー、おもしろい本を見つけました。
プロマネ(プロジェクトマネジメント)本なので、対象読者が限られるかもしれませんが、「なんで、こんなに忙しいんだ!」「なんとかしろ!」と職場でお嘆きの方にはお薦めです。お試しください。


プロジェクトというのは、完了が遅れることがあります。特にソフトウェア開発プロジェクトは、よく遅れます。
本書でも引用していましたが、「日経ビジネス」の調査では、
   ソフトの開発は4分の1が開発途中で機能を削減、
   半分以上が予算をオーバー、
   半分以上が納期遅れ
という悲惨な状況だそうです。(「日経ビジネス」2005年4月25日、5月2日号)
著者の分析によれば、
   ・責任感が強い担当者ほど、締め切りにサバを読む
   ・余裕ある工程が認められると、早く終わっても報告しない
   ・誰かが遅れると、遅れは伝播する
   ・デキる人ほど作業を掛け持ちさせられ、効率が悪い
とのこと。
う〜ん。思い当たります。


著者が提案する解決策はシンプルで、
   ・計画段階で、担当者のサバを吐き出させ、
    できるかできないかギリギリの締め切りを設定する。
   ・その代わり、予定通りできない時は、プロジェクト全体の余裕
    (親方バッファ)を使わせてあげる。
   ・「残り○○%」という管理は行わず、「あと○○日終了」で報告
というものです。
詳細は本書を参照いただくとして、著者の提案を実践すると、担当者とマネージャが良い関係になることは間違いなさそうです。
よく、管理者が部下に「何か問題ないか?」という質問する人がいますが、こういう質問をする人は、「本当に問題が起りそうだったら早めに報告してほしい」と思っていることは稀で、部下も敏感に察知します。
本当に事前に問題をキャッチしたいのなら、
   「プロジェクト完了までの間に問題があるとしたら何がある?」
というのが正しい質問とのこと。


カラーで図がたくさん入っていて、とても分りやすい本書ですが、TOCイスラエルの物理学者エリヤフ・ゴールドラット博士が提唱する経営直結の経営哲学)という理論から生まれたCCPM(Critical Chain Project Management)という最新のプロジェクト管理手法がベースにあります。
しかも、単なる学術書ではなく、多くのプロジェクトをてがけた経験を背景にして書かれている本書は、「面白くて、ためになる」というおいしい本の典型です。「サバ取り段取り」、「親方バッファ」、「科学的段取り八分」など、ネーミングの妙もお楽しみください。
土井英司さんのメルマガ「ビジネス・ブック・マラソン」でも、土井さんが100冊に1冊贈呈しているBBM大賞に耀いていましたよ。



少し古い話ですが、ピューリッツァー賞を取り、1985年当時話題になった『ゲーデルエッシャー,バッハ―あるいは不思議の環』という本に「ホフスタッターの法則」という、次のような法則が書かれていました。(ホフスタッターは著者の名)


  「ホフスタッターの法則
   ものごとは予想以上に時間がかかるものである。
   たとえ、ホフスタッターの法則を考慮に入れたとしても」


ホフスタッターの法則は、アキレスと亀の寓話に相似した、とても哲学的な法則です。しかし、プロジェクトの渦中にいる人間が達観しているわけにいきません。
本書はホフスタッターの法則を覆す、画期的な手法かもしれませんよ。