一生懸命って素敵なこと


著者:林 文子  出版社:草思社  2006年1月刊  \1,260(税込)  204P


一生懸命って素敵なこと


著者の林文子さんは、ダイエーを再建するために会長兼CEOとして招かれた方です。OLは結婚退職が当たり前の時代に社会人になった著者は、高校卒という学歴面のハンディを持ちながらも、順調に出世してきました。
31歳でホンダの販売店に転職してトップセールスマンとなった頃から頭角を現し、47歳でBMWの支店長、53歳でフォルクスワーゲン東京社長、57歳でBMW東京社長に就任しました。
著者がキャリアを積んだ車のセールスの世界は、御多分にもれない男社会で、「ああいう女性になりたい」という先輩もいなかったし、悩みを相談できる仲間の女性もいませんでした。そんな中で道を切り開いてきた著者は、「若い女性たちにとって少しでもお役に立てるのなら」と各種セミナーで自分の経験を語ってきました。
その内容を出版することによって、より多くの女性に希望を与えることを著者は念願しています。


著者が入社した車の販売店では、来店した客をセールスマンが値踏みするのが普通でした。この客は買いに来た客か、単にひやかしに来た客かを予想し、お金を出しそうもない客の相手をしようとしません。相手をしたとしても、すぐ車の性能やお金の話を持ち出し、客がどういう生活をしているのか、車を購入することでどんな楽しいカーライフを送りたいと考えているのか、ということを話題にしないのです。
対照的に、「人間が大好き」という著者は、満面の笑顔で世間話から対話をはじめました。他のセールスマンなら相手にしない主婦や子供にも誠実に対応しますので、客は著者に信頼を寄せてくれます。「林さんから購入したい」というお客さんに後押しされ、著者はセールスを天職と感じるようになりました。
そんな著者の信念は、
  「人生で大切なのはプロセスである。
   結果はあとからおのずとついてくる」
ということです。


本書には、「一生懸命やれば必ず道は開ける」ということを確信するに至ったエピソードがたくさん紹介されています。
さすがに結果を出しつづけてきた著者らしく、「一生懸命」も並みじゃありません。たとえば、ショールームに来ていただいたお客様にご挨拶する「答礼訪問」は、必ずその日のうちに実施していました。訪問先で話が盛り上がると、最後のお客様の訪問が夜の10時、11時になることもざらです。結果として一日15、6時間働くことになります。そこまでやる人は、著者のまわりにはいなかったそうで、それだけの工夫をしていれば、結果がついてくるのは当たり前かもしれません。
それをサラッと、「一生懸命って素敵なこと」と思わせてくれるのが、本書の一番の魅力と感じました。


ダイエーの再建が進んでいない、と最近の新聞記事にありました。
著者がフォルクスワーゲンで行ったさまざまな改革や提案が受け入れられ、社員の意識が変わるのに2年かかったそうです。きっとダイエーで結果が出るのも、もう少しの辛抱でしょう。


林さん、期待してますよ!