蒼穹の昴〈2〉


2004年10月刊  著者:浅田 次郎  出版社:講談社文庫  \620(税込)  367P


蒼穹の昴(2) (講談社文庫)


清朝末期時代を描いた歴史小説の第2巻。
この物語の主要人物である西太后が、まず権力の頂点で横暴にふるまう人物として登場しました。
公式の政治の世界で非情な最高権力者として振舞うことはもちろんですが、後宮でも、やれ饅頭《マントウ》に羽虫が入っていたといっては料理長の足を折って紫禁城から追放し、やれ芝居の演技が下手だといっては御前役者を棒叩きにします。そのためにこん棒を持った「散差」という役人が、いつも待機しているありさまです。
一方で西太后は、慈悲深い皇后として庶民から慕われ、老仏爺《ラオフォイエ》と呼ばれる存在でもあります。お側に仕える女官や宦官たちも、いつこん棒の罰を受けるか戦々恐々としながらも、西太后を老祖宗《ラオヅッオン》と呼んでいます。
更に、西太后には乾隆帝(偉大な清朝第六代皇帝)の霊と対話する力があり、外国に蚕食される中国の舵取りを「おじいちゃん(乾隆帝)」に相談するという、か弱い女性としての側面も持っていました。
乾隆帝の霊は言います。
  「天下に帝位なるものの続く限り、民は救われぬ。真の平和は民の力に
   よって初めて実現するものだからの」
西太后は帝政にピリオドを打つ苦しみ耐えることを期待され、「ずるいよ、おじいちゃん」と泣き崩れます。


本書の主人公文秀《ウェンシウ》と春児《チュンル》は、第1巻で占い師から将来の栄達を予言されましたが、第2巻で再び登場した占い師が、実は春児には昴の宿星など無かったことを明かしました。家族もろとも飢え死にする卦が出ていましたが、あまりに不憫になった占い師が、薩満《シャーマン》の掟を破って偽りの卦を伝えたというのです。
その占いを信じた春児は、飢え死にすることなく、奇跡的なめぐり会いを経て西太后にお目通りできるまでに出世した宦官になりました。占い師は言います。
  「わしは信じたいのじゃよ。この世の中には本当に、日月星辰を動かす
   ことのできる人間のいることを。自らの運命を自らの手で拓き、あら
   ゆる艱難に打ち克ち、風雪によく耐え、天意なくして幸福を掴み取る
   者のいることをな」


第2巻では、天命を持つものの証しである龍玉《ロンユイ》が行方不明であることが明かされ、その龍玉こそがこの物語の壮大な伏線であることが暗示されます。


崩れゆく清朝の政治の舞台で、主人公たちにどんな運命が待っているのか。
……第3巻に続きます。


最後に、第2巻からもトリビアを一つ。


西太后から棒叩きの刑を受ける仲間の宦官をかばい、春児は自分が棒を受けようと言い出します。その時、居合わせた上官の宦官が次のように告発しました。(文中の太監《タイツェン》とは宦官のことです)

  畏れ多くもこの者は、大御心を算《かぞ》えておりまする。棒打ちの刑
  を自ら願い出て寵を得ようとするは、古来より『打算』と申しまして、
  心いやしき太監の策にござりまする。なにとぞ心おきなく百の棒を賜う
  べきかと存じ奉りまする


ふ〜ん。