中原の虹 第2巻


著者:浅田 次郎  出版社:講談社  2006年11月刊  \1,680(税込)  371P


中原の虹 第二巻


中国、清朝末期を描いた大河小説の続きです。


光緒帝を逮捕して、中南海の瀛台(エイダイ)に幽閉して10年。西太后は、中国の舵取りに疲れ、遠からず死を迎えようとしています。
歴史上の西太后は、則天武后呂后とならんで、中国の三大悪女として知られています。しかし、浅田次郎は、西太后を列強諸国からの侵略を持ちこたえ、四億の民を守り抜いた人物として描きました。
19世紀末、列強諸国は植民地の拡大競争のまっただ中にいました。資本主義は植民地を経営すること、搾取することによってのみ成り立つ。そう信じられていた時代です。


国の針路を誤れば外国に侵略され、国民は奴隷となる。
自分の夫が中華皇帝の役目を果たせない無能な人物であることを知り、西太后は自らの手で夫(咸豊帝)を殺し、事実上の摂政として国の舵を握りました。次に即位した同治帝も、政治を省みない愚鈍な皇帝でした。悩んだ末に、西太后は、愛するわが子をも除きます。
次に即位させた甥の光緒帝を深く愛しますが、光緒帝は急進派の取り巻きたちに祭りあげらてしまいました。とうとう西太后暗殺まで計画されるようになり、西太后は光緒帝を幽閉して三たび、政治の中枢に座りました。


前巻までに第六代皇帝の乾隆帝がたびたび登場していましたが、この第2巻では、清朝を起こしたヌルハチの時代の回想場面が何度も登場します。
女真族を統一し偉大なるハーンとなったヌルハチは、明朝を倒して中華帝国全体を手中に収めることに消極的でした。中原に駒を進めるよう強く求めた長男を幽閉し、最後には死なせることによって、自分には中華皇帝の天命がないことを明らかにします。


浅田次郎は、ヌルハチの子の太宗が明の王城に入ったとき、太宗の幼き息子(将来の順治帝ヌルハチの孫にあたる)の手に天命の印しである龍玉が収められているのに気づいた、と描いています。


それほど、龍玉と天命の関係は深い、と。


その龍玉を乾隆帝が子孫に伝えず隠してしまってから、清王朝は衰退の坂を転げ落ちていきます。19世紀末の中国は、西太后の頑張りでなんとか国の形を持ちこたえている状態でした。


その立役者が死ぬのです。
いったい、四億の民の運命はどうなるのか。
死ぬに死ねない思いの西太后でしたが、自分の寿命の尽きたことを知り、まだ三歳の溥儀を皇帝の座に据えるという最後の仕事を果たします。


最期の最期に西太后の胸に去来するものは……。



読み終わって、大きく溜息をつきました。
重苦しい場面の多い第2巻でした。


元より、小説というのはすべてが絵空ごとの世界です。
一般に知られている史実と違い、四億の民のために夫を殺し、子を殺し、最後に残された最愛の光緒帝まで殺そうとしている西太后は、そこまでして中華の民を守ろうとする生き仏として描かれています。
苦しみの生き仏が最晩年に迎えた悲劇。
その中で唯一の救いは、これまた生き仏のような家郎(宦官の春児)に身近に居てもらえることができたこと。


浅田次郎浪花節に、またも心を震わされてしまいました。


西太后亡き後、次の第3巻は争乱の時代に突入すること必至ですが、残念ながら、まだ発売されていません。