2004年5月刊 著者:菊田 慎典 出版社:光人社 \1,890(税込) 245P
『坂の上の雲』といえば、言わずと知れた司馬遼太郎が日露戦争を描いた長編小説のタイトルです。
その『坂の上の雲』の真実を明かす本、ということですから、いったい何が書いているのか、と期待して読みはじめました。
私は、あまり読んだ本に文句をつけるような内容を書かないようにしています。文句を言うくらいなら取りあげなければ良い、という方針でこの書評ブログを続けてきましたが、今回は敢えて書きます。
ひどい! 全く期待外れ。司馬遼太郎のタイトルを借用しないでほしい。ふざけるな! と著者に言ってやりたくなる本です。
本書の内容を簡単にまとめると、
「兵力を用いるときは一点に集中して用いるべきである。日本海海戦
の勝利は、たまたまこの原則にはまったからであって、司馬遼太郎
が書いたように参謀の秋山真之が天才だったからではない」
ということです。
この内容を淡々と書いているのであれば、文句をつける必要はありません。しかし、著者はことあるごとに「白い雲」という決まり文句を使い、『坂の上の雲』を冒涜しているような表現をしているのです。
そもそも「白い雲」を勝手に「兵力一点集中を示す言葉」という解釈をして、司馬遼太郎のタイトルを狭い意味に閉じこめるところから間違っています。
司馬遼太郎は、『坂の上の雲』の準備と執筆に四十歳から五十歳までの十年を費やしました。著者は自分の経歴を司馬氏の執筆経緯になぞらえて、
「このときから三十幾星霜、司馬氏と同じように五十歳から六十歳ま
での十年を、防衛研究所戦史部で日本陸海軍作戦戦闘史の調査研究
に従事した私は、……」
と書いています。
自分は専門家だ、という自負からなのでしょうか。とにかくエラそうです。
司馬遼太郎ファンが本書を読むと、どこかに怒りをぶつけたくなります。タイトルに惑わされてこんな本を読まないように気をつけて下さい。