「人口減少」で日本は繁栄する


副題:22世紀へつなぐ国家の道
2005年7月刊  著者:日下 公人  出版社:祥伝社  \1,680(税込)  205P


「人口減少」で日本は繁栄する―22世紀へつなぐ国家の道


少子化により2006年に(でしたっけ)人口が減少しはじめる、というタイミングでこういうタイトルの本が出ると、思わず手に取ってしまいます。GDPが減少する、社会保障費用が増大して国民の負担が増す、と心配している人に希望を与える内容に違いない、と期待します。


慌てることはない。日本列島は、過去に3回も人口減少期を迎え、その度に文明や文化を発展させてきたのだ、と著者はいいます。
1回目は縄文時代末期の低温化による人口減少。おかげで縄文文化は終焉を迎えましたが、代わって弥生文化がやってきました。平安時代には耕作地が頭打ちになって2回目の人口減少期になりましたが、10世紀のこの時期に国風(藤原)文化が成立しました。3回目は室町時代。戦乱の影響で人口が減りましたが、商品経済や金融業が飛躍的な発展を遂げ、それを背景に、現代に通じる日本の伝統文化や芸術がこの時代に作られている、とのこと。
著者は、新しい文化が生まれるメカニズムを、次のように分析しています。
    生産性の落ちた土地や仕事を捨てる
  ⇒ 結果として、生産性の高い土地や、生産性の高い職業が残る
  ⇒ 一人あたりのGDPが確実に高くなる
  ⇒ 生活に余裕が生まれ、ふたたび非生産的な仕事をする人を抱えられる
  ⇒ 非生産的なことに心血を注ぐ学者や芸術家が現れる


だから、4回目も心配しなくても良い。という論法なのですが、そうかなぁ。やっぱり心配だなぁ。復興して新しい文化が成立するまで、待ってられないなぁ。


著者は、この後、現代社会に対する持論を展開するのですが、その内容が「人口減少を心配するな!」に負けず劣らずユニークな内容で、もうトンデモ本というか荒唐無稽というか、すごい内容になっています。なにしろ、「日本が弱気や卑屈さを脱するために、一番簡単な方法は、原子爆弾を持つことである」とまで断言しているのですから。
著者のこの独特な言説の中心には、日本の古き良き文化への愛と郷愁があるのではないか、と私は感じました。それは、次のような著者の言葉に表れています。

今から1500年も前に統一されているから、外来者はすぐに同化されて内部には争いがない。
 世界中を探してこんな国があるだろうか。これはやはり恵まれた国なのだというほかはない。
 文化の面でも早くから啓かれていた。(中略)
 7世紀、聖徳太子の時代、すでに彼の目の前には、当時の世界の三大思想がすべてあった。聖徳太子はそれをすべて読み込んで解釈をつけ『三経義疏』という解釈書を出している。


少子化問題を考える、というよりは、日本への愛を語った本でした。