考え方のつくり方


副題:自分のアタマで考えるメソッド
2005年7月刊  著者:渡辺 パコ  出版社:大和書房  \1,470(税込)  198P


考え方のつくり方―自分のアタマで考えるメソッド


自分の人生を考える、世の中のことを考える、ということは誰でも関心のあることと思います。しかし、「哲学」となると、ちょっと近寄り難い気がして敬遠してしまいがちです。
10月20日のブログで取りあげた『勝っても負けても』も哲学を主題にしたエッセイ集でしたが、著者の池田晶子さんが強烈な方なので、こういう本を読むと、ますます「哲学」から遠ざかってしまいそうになります。


その点、渡辺パコさんは、名前からして安心して近寄りやすい印象があります。
パコさんは大学で哲学を学んだのですが、生身の人間として生きる糧にするためにはだかなりの距離があることに違和感を覚え、哲学を学ぶのをやめて、ビジネスの道に入りました。しかし、「今を生きるために必要な価値判断をしたい」という初心を失ったわけではありません。コピーライターとして広告を作り、企画書を作りながらも、自分なりの価値観をつくることはずっと意識してきました。
そのパコさんの考え方の集大成といえるのが本書です。


著者の考えでは、「考え方」をつくるには、自分と違う意見の人の言葉をていねいに聞き、理解し、自分の考えを絶対的なものにせずに、相対的な比較の中で理解していくことが必要です。何の理論的根拠もなしに、自分の思いついた意見を声高に主張するのは、単に「頑迷」なだけです。
その具体的な方法として、自分の考えを相対化する、隠れた前提を疑う、歴史感覚を持つ(縦軸)、地球感覚を持つ(横軸)などの10個のヒントを教えてくれます。また、実戦編として、男女の違いをどう考える?、戦争は絶対にいけないこと? などの6つのテーマについて、幾つかの考え方を紹介し、著者はどう考えるかを一例として示しています。


実戦編の実例を挙げましょう。
「戦争は絶対にいけないこと?」の中では、戦争をめぐる議論に3つの立場がある、と分析します。
  (1) 戦争は悪、やめるべきという理想主義的な立場
  (2) 戦争はやむを得ないこともあり、認められるべきという現実主義的な立場
  (3) 戦争は目的を実現する有効な手段で、積極的にやるべきという好戦的な立場
○○主義的立場、という分類に既に著者の価値観が現れている気もしますが、それはさておき、著者は、分類したあと、それぞれの立場を選んだ人が、他の立場の人からどのように見られるか、という視点でも解説してくれます。


著者の分析では、
  (1) を選んだということは、たとえ相手の国が悪いことをしていても、
    「悪との平和共存」というおかしな状況を実現する努力をし続ける
    ことを意味します。
  (2) を選んだということは、安易な善悪判断を受け入れることを意味し、
    一歩間違えると自分たちが悪だと決めつけられる危険と隣り合わせ
    で、しかも戦争によって悲惨な状況になる可能性を受け入れること
    を意味します。
  (3) という立場は、一歩間違えば、ヒトラーフセインの立場になりか
    ねません。


どの立場にも、一長一短があります。その上で、どの世界を実現したいのか、それが自身の価値観につながる、とのことです。


やさしい語り口なので、すらすら読めます。ずんずん最後まで読んでしまいましたが、読後に、何か物足りなさというか、違和感というか、私なりの異論が浮かんできました。
それは、著者の「考え方のつくり方」は、少し論理に重きを置きすぎるのではないか、ということです。
他の人の考え方を聞き、歴史的にも地球的にも見渡して考え方を作るというのは、確かに正論です。しかし、自分の意見である以上、自分の生きてきた経験、自分がどこに住んでいるか、どういう社会的立場にいるか、ということは無視できません。特に自分の経験に基づいていない考え方は、単に教科書的な考え方に過ぎなくなってしまうのではないか、と思います。


戦争をどう考えるか? ということも、太平洋戦争を実際に経験した世代であれば、「何がなんでも、戦争はイヤだ!」という考え方を持っていても不思議はありません。そういう人を、決して「頑迷」と呼んではいけない気がするのです。


もちろん、私には私なりの生い立ちがあり、現在の仕事環境、家族環境、住環境、人間関係があります。そこから湧き上がってくる意見・思想・考え方を大切にしたい。たとえ「お前の考え方は偏っている」と言われても大切にしていきたい。
……という頑迷さが自分にはあるんだなぁ、と気づかせてくれる本でもありました。


皆さんも、いろいろ考え込んでみて下さい。