グローバリズムが世界を滅ぼす


著者:エマニュエル・トッド/著 ハジュン・チャン/著 柴山桂太/著 中野剛志/著 藤井聡/著 堀茂樹/著   出版社:文藝春秋  2014年6月刊  \896(税込)  246P


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時事ネタとして最近よく耳にする「TPP」と「ギリシャ問題」を深く理解するための本を2冊取りあげる。


2冊とも主著者はフランスの歴史人口学者、エマニュエル・トッド氏である。


トッド氏は人口の変化や家族関係が国や地域で異なっていることに着目し、著書のなかで国際情勢の変化を予言し、ずばり適中させた実績をいくつも持っている。


1976年に出した『最後の転落』では、出生率が低下していることを理由にソ連共産主義の崩壊が近いことを予見した。また、2002年の『帝国以後』でアメリカの金融危機を、2007年の『文明の接近』で「アラブの春」を予告していた。


2008年に出した『デモクラシー以後』では、「自由貿易が民主主義を滅ぼしうる」と指摘していて、今日とりあげる『グローバリズムが世界を滅ぼす』は、自由貿易への反対を重ねて表明する内容である。
また、もう1冊の『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』は、ユーロ圏の行き詰まりと破滅を警告し、ドイツによる「独裁」を糾弾する一書である。


なんとも気の滅入る内容であるが、1冊ずつ見ていこう。


グローバリズムが世界を滅ぼす』は、エマニュエル・トッド氏を日本に招いて2013年に開催されたシンポジウムと対談の内容をまとめたものである。


収録されているのは、

  • 12月2日に京都で開催した国際シンポジウム「グローバル資本主義を超えて」
  • 12月3日に京都で行われ『文藝春秋』に掲載された対談
  • 12月5日後に東京で行われた公開対談「グローバリゼーションの危機」

の内容である。


書名が示すとおり、エマニュエル・トッド氏も、トッド氏を迎えた日本と韓国の学者たちも、グローバリズムをこれ以上進めてはいけない、と主張している。


共著者のひとりチャン氏は、グローバリズムのここ150年の歴史を振り返り、次のようにまとめる。

19世紀の後半から第一次グローバル化が始まったが、1914年をピークに一転、勢いが衰える。1950年代から70年代半ばまでは束の間の脱グローバル化の時代だった。そして1980年代から再びグローバル化の時代を迎えた。
    (引用にあたり漢数字を算用数字に変更。以下同様)


そして、全著者が次のようにグローバリズムに反対を表明する。

ビジネスに自由さえ与えれば富も雇用も創出され、最大限の成長があると信じてきたが、それは事実じゃなかった。

今のグローバル経済は、国による規制を敵視していますが、実は、アメリカにしても日本にしても「国による産業保護」という規制が成長を生んだのです。

資本主義は、国家という枠内で市場とガバナンス(統治)を発展させてきました。市場は、国などのルールによってしっかりと統治されて初めて機能するのです。


まるで、小泉元首相が「抵抗勢力」と決めつけた旧勢力の言い分そのものだが、新自由主義による格差拡大をくい止めるには、グローバリズムを抑えるしかないのかもしれない。


トッド氏も率先してグローバリズムに反対しているが、ここでは、人口学者、人類学者の視点から中国の将来について語っている部分を紹介しておく。

中国については、人口学者、人類学者の私としても、将来は暗いと言わざるを得ません。
 まず、高齢化の問題です。65歳以上の比率は、現在9.4%なのが、国連の推計では2035年には19.5%まで上昇します。日本などの先進国と違って、中国は、国民みんなが豊かになる前に、高齢化が始まってしまうのです。中国の人口規模では、外から移民を入れてもまったく不均衡の解消につながりません。つまり手の打ちようがないのです。
 それから直感的に言えば、中国の経済は奇妙な状態にある。というのも、住宅や設備など固定資産投資がGDPの40%から50%にも達しています。これは、急速な工業化を目指した過剰な投資が、実際には、無駄な生産設備を増やすだけに終わったスターリン時代のソ連経済を髣髴とさせます。
 さらに、人類学的には、中国の家族類型は「共同体家族」というカテゴリーに属します。父親が偉くて、兄弟はみな平等というこの家族形態は、ロシア、イタリア、旧ユーゴスラビアベトナムキューバなどに共通するのですが、興味深いのは、共産党が政権を取った地域と重なり合うことです。つまり権威として支配する権力者と、その他の人々の平等主義という組み合わせは、共産党支配と強い親和性を持っていた。しかし、今の中国には解放の名の下に大きな経済格差と不平等が蔓延している。私は中国社会の本来のありようとして、この矛盾は、とても耐えられないのではないかと考えます。


明日につづく