日本人のためのピケティ入門


副題:60分でわかる『21世紀の資本』のポイント
著者:池田 信夫  出版社:東洋経済新報社  2014年12月刊  \864(税込)  77P


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トマ・ピケティ著『21世紀の資本』が売れている。
728ページで厚さが4.6cmもある文字通り「圧巻」なのに、今月中に13万部を超える勢いだという。


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これだけ話題になると「持ってるだけでカッコイイ」と飛びつく人もいるだろうから、まだまだ売れるにちがいない。
おカタい翻訳本の多いみすず書房にロングセラーはたくさんあるだろうが、短期間にこんなにヒットするのは初めてのことだろう。


もう20年以上前に、『磯野家の謎』が大ベストセラーになった飛鳥新社が、ばく大な利益を持てあまして新聞事業に進出し、大赤字を出して撤退したことがあった。
みすず書房は同じ轍を踏まず、おカタい路線をつづけてもらいたい、と思う。


本題に入る前にもうひとつ余談を。


『磯野家の謎』よりさらに10年以上前のこと。1980年にアルビン・トフラーの『第三の波』という本が、ベストセラーになった。やはり666ページもある分厚い本だった。
大学生の僕は、知的虚栄心を……、いや、知的好奇心をくすぐられて購入し、途中で放り出すのはくやしいから、全編読了した。


そのころ、就職担当の教授との面談があった。
「最近なにかおもしろい本を読みましたか」ときかれ、胸をはって『第三の波』がおもしろかった、と答えた。
「どんな内容ですか」とさらに訊ねられ、内容を3分くらいに要約して話したところ、
  「僕は読んでいないけれど、他の先生から聞いて内容は知っている。
   君はきちんと読んだようだね。
   要約が分かりやすかったよ」
と褒めてくれた。


就職担当の教授に褒められるのはうれしかった。ぶ厚い本を読んだ甲斐があった。
知的虚栄心も役に立つことがある。


しかし、どうも今回は『21世紀の資本』に手が伸びない。
話題になってから読むのはなんだかくやしい、というアマノジャクな性格が出てしまったようだ。


そのかわり読むことにしたのが、この本。
池田信夫著『日本人のためのピケティ入門』だ。


いつも僕の書評はネタばらし自粛の方針で書いているのだが、今回は方針を変える。
この本がそもそもピケティの本の解説・ネタばらしを目的にしているからだ。


ぶ厚い本のネタばらしの内容を、さらに要約して紹介することになるが、
それでピケティが分かるかなぁ〜。
分かった気になるかどうか、または分かったことにするかどうかは、読者であるあなた次第、とさせていただく。


長い前置きになったが、ここから『ピケティ入門』の内容紹介をはじめることにする。


池田氏は、『21世紀の資本』で書かれているピケティの主張を、つぎの一文に要約した。

主張は単純です。資本主義では歴史的に所得分配の格差が拡大する傾向があり、それは今後も続くだろうということです。


過去200年の歴史を研究した結果、お金持ちはもっとお金持ちに、貧乏人はもっと貧乏になる……、という身も蓋もないことが分かったのだそうだ。


ちょっとだけ難しい表現をすると、ピケティは資本主義の根本的矛盾という次の式を示している。

  r > g


rは資本収益率、gは国民所得の成長率のことで、この式は「資本収益率が成長率を上回る」ということを示している。
お金がお金を産む率のほうが、働いた報酬の伸び率より高い。だから、お金持ちの貯蓄が増える量が、働く人の給料が増える量より多い。時間がたてば、どんどん差は開いていく。


今までの経済学では「資本主義の発展とともに富が多くの人に生き渡って所得分配は平等化する」とされてきた。
投資がもうかるからといって投資が増えすぎると資本収益率が下がり、長期的には労働生産性に近づくと考えられていたからだ。


しかしピケティが集計した1870年以降の歴史的データによれば、50年くらいは平等化しているが、残り90年間が不平等化していた。経験則として、資本主義では格差が拡大するのが普通だというのである。


こんな不平等をそのまま放置していいはずはない。いったいどうしたら良いのか。


格差の拡大をふせぐために、ピケティは「累進的でグローバルな資本課税」が望ましいといっている。
収入に課税する「所得税」ではなく、蓄積している財産に課税する。お金持ちほど税率が高くなる(累進的)ようにし、税金の安い国(タックス・ヘイブン)にお金が移動できないようにグローバルに課税する、という対策を勧めている。


ピケティの考え方を思いっきり要約すると以上のようになるのだが、池田氏は次の3つの構成で説明してくれる。


まず第1章「ピケティQ&A」で、「要するに何が書いてあるんですか?」など、ぜんぶで14の素朴な質問に答えながら、『21世紀の資本』をざっくりと説明。


つづく第2章「ピケティをどう読むか」でもう少し詳しく解説。


最後の第3章では「日本の読者にわかりやすくすることを最優先」にして、池田氏なりの整理を披露して終わり。


シンプルな構成で、あとがきもない。


以上、ここまで読んで、ピケティを分かった気になっただろうか?


おもしろい本はたくさんあるのだから、無理して728ページもある『21世紀の資本』読む必要はないと思うが、僕の要約で満足せずに、せめて77ページしかない池田氏の解説くらい読んでみることをお勧めする。