1%の力


著者:鎌田 實  出版社:河出書房新社  2014年9月刊  \1,080(税込)  214P


1%の力    ご購入は、こちらから


僕の大好きな鎌田實さんの最新刊。


ベストセラーになった『がんばらない』から14年。
「1%は誰かのために生きよう」という新しい生き方を提案する、新しいカマタ本である


全人生をかけようとすると大変だけど、「1%」と言われると手をつけやすくなる。
でも、その1%で人生も変わりはじめる。
1%には不思議な力がある!


それがこの本の主題。


カマタ先生を知らない人のために、まずプロフィールを紹介。


1948年東京都生まれ。
東京医科歯科大学医学部卒業。


74年、長野県の諏訪中央病院に赴任。
一貫して「健康づくり運動」「住民とともに作る医療」を実践。


1991年より23年間、ベラルーシ共和国放射能汚染地帯へ百回の医師団を派遣し約十四億円の医薬品を支援。


2004年にはイラク支援を開始し、イラクの四つの小児病院へ薬を送り難民キャンプでの診察を実施している。


現在、諏訪中央病院名誉院長、日本チェルノブイリ連帯基金(JCF)理事長、日本・イラク・メディカルネット(JIM‐NET)代表、東京医科歯科大学臨床教授、東海大学医学部非常勤教授。


この本から、カマタ先生らしさの出ているところをいくつか紹介する。

カマタ先生の冗談はきつい。かなりのブラックユーモアを連発する。


たとえば……、


頸椎症がひどくなり、手術をしても機能回復効果が少なく、しびれも増えてきた92歳の男性患者に向かって、
  「こういう人はなかなか死なないんだよな」、
  「悪運の持ち主だから生きるのに強いんですね」
と声をかける。


悪性疾患の中皮腫が再発してしまい、希望を失っておとずれた女性養護教員の診察で。
  「何でも言いたいことを言うたちなんです。
   君はジャンヌ・ダルクだね、と言われたこともありました」
という患者に、
  「それなら最後は火あぶりですか」
と合いの手を入れ、
  「養護室を利用する子どもたちから、無駄に明るいと言われています」
という話を受けて、
  「再発したらもう終わりなんてことはないのです。あなたの取り柄の
   『便所の100ワット』にかけてみませんか」
とジョークまじりに提案する。


カマタ先生の冗談がきついのは、こんなことが言いあえる信頼関係ができているからだ。
笑いが希望につながることを知っているからだ。


養護教員の診察に付きそっていたお母さんは、ずっと下を向いて泣いていたのに、「『便所の100ワット』にかけてみませんか」と言われて、とうとう笑いだしてしまったとのこと。

カマタ先生は欲張りだ。


生き抜くためには自己肯定感が必要。
だから「がんばらない」ことを患者さんと読者に勧めてきた。


でも患者さんを支える病院のスタッフには、自己肯定感を持ちつつ、これじゃダメだと思う自己否定ができる人間を目指すことを求めている。


もう20年、看護師の卵たちに看護哲学を教えてきた。
自己肯定と自己否定の両方を育てるためにカマタ先生は「1%」を使ってきた。


「命とは何か」を考える授業をおこなったあと、試験の前に問題をあらかじめ発表する。


「人を支えるとは何か」
「生きるとは何か」
「命とは何か」
「あなたが大切な人を看取るとき、どんな思いで看取りますか」
「あなたのこだわりのある看護観を書きなさい」
など、自分の考えを問う問題だ。


あらかじめ問題が出されているので、裏表びっしり書きこまれた答案用紙ばかり。
それを何か月も時間をかけてゆっくり読んだカマタ先生は、ほとんどの答案に「99点」と採点するという。


いつもやっと60点を越して合格をもらってきた子たちが、99点をもらうとうれしいものだ。この試験を通じて、自信を持ち、自己肯定感を持つ。


逆に、いつも満点をとってきた子は99点はショックだ。こういう子には、優等生であるだけでは生きていけないこと、自分たちが相手にする人間というのは、実は複雑怪奇なのだということに気づいてもらいたい。自己否定感を持って、そのことを忘れないようにしてもらいたい、とカマタ先生は言う。

カマタ先生は、アブナイ人だ。


急性膵炎で集中治療室に入院していた人から、どうしても退院させてくれ、と懇願された。
「苦境に立たされている会社の社長に就任する。初日にどうしても就任挨拶したい」とのこと。


そこまでおっしゃるなら、と諏訪中央病院の院長であるカマタ先生は退院を許可し、東京の病院へ寝台自動車で直行する手配をした。


カマタ先生は言う。

 人生の中には、一生に1度か2度は、健康や命よりも大切なものが生じる時があるのです。アンゼンばかりを考えて人生を生きていても、人生は輝いてきません。大切な岐路にさしかかっていると思えた時は、あなかはやりたいことをやればいいのです。アンゼンなんかどうでもいいのです。
 せっかく一生に1回だけの人生なのに、確率の良い道を選んで生きるのは、おもしろくありません。

カマタ先生の「あと1%」の姿勢は、病院のスタッフにも伝わっている。


それは、もうすぐ死を迎えようとする患者さんに「あと1%」の満足を味わってもらおうとする行為にあらわれている。


ある看護師長は、緩和ケア病棟に入院していた末期がんのおじいちゃんの「ジゴボウが食べたいな」というつぶやきに反応した。ジゴボウというのは八百屋さんでは売っていないキノコの一種なのだが、もうキノコの時期は終わっていて、看護師さんたちが手分けをして山に採りにいっても見つからなかった。


看護師長はあきらめなかった。
この患者さんの「生きたい」という思いを強められるかもしれないと思ったのだ。
何回も何回も山に入り、とうとう落ち葉の下に隠れていたジゴボウの群れに出会った。


おじいちゃんがカマタ先生に書いた手紙には、「嬉しくて嬉しくて、なきながらジゴボウの味噌汁を食べました。この病院に来てよかったです」と書いてあったそうだ。

カマタ先生はウソつきだ。


『がんばらない』なんて本を出して、無理をしない生き方をすすめているくせに、本人はずーっと頑張りつづけている。


こんども「たった1%」なんて言っているけど、カマタ先生の「1%」は「1%」ですまない。
100%全力投球したあとに「あと1%がんばろう」と励ます。


「え〜っ! それじゃ101%じゃない!」


やっばりカマタ先生は、とことんムチャぶりする人だったのかぁーーー!


本書は、101%満足した人生を送った人たちの記録であり、それを見守りつづけているカマタ先生の涙目日記である。

僕のように、涙もろくなってきた年代の人は、ハンカチをお忘れなく。

カマタ先生のイベント

カマタ先生が代表を務める日本・イラク・メディカルネット(JIM-NET )
のイベントが来週日曜日に開かれることを知り、僕も参加申し込みした。


興味のある方は、ぜひご参加を。


いのちの花 〜イラク、福島、シリアをつなぐ朗読・音楽のつどい
日時 2015年1月18日(日)
会場 千駄ヶ谷区民会館(JR原宿駅徒歩10分)
開演:14:00
終演:15:30
資料代:500円

村上 信夫     ご挨拶
日高 のり子    『ほうれんそうはないています』
村上 信夫     『へいわってすてきだね』
鎌田  實      『ハウラの赤い花―イラクの少女がねがったこと』
川畠 成道      演奏
鎌田  實      薔薇の花・イマーンちゃんのこと
日高 のり子     『雪とパイナップル』
川畠 成道      演奏
スペシャトーク  『子どもといのち』

『ほうれんそうはないています』 鎌田實著 長谷川義史イラスト ポプラ社
『へいわってすてきだね』安里有生著 長谷川義史イラスト ブロンズ新社
『ハウラの赤い花』佐藤真紀著 ジャマル・ハウラ画  新日本出版社
『雪とパイナップル』鎌田實著 唐仁原 教久画  集英社

⇒ ご予約はJIM-NETのイベント案内を参照。