副題:〈いのち〉と〈平和〉を考える18通の往復書簡
著者:池田香代子 鎌田實 出版社:マガジンハウス 2007年12月刊 \1,365(税込) 188P
本書の共著者のひとり鎌田實さんは、私が何度も取り上げている、「がんばらない」「あきらめない」生き方で有名なお医者さんです。もう一人の池田香代子さんは『ソフィーの世界』や「100人の村」シリーズの翻訳者です。
このお二人、実は都立西高校の同期生です。
ただし、高校時代は顔と名前を知っているくらいで、池田さんのことばを借りれば、
「わたしたちは、人生の駆け出しの頃にほんの数年、たまたま同じ
学校に通っただけで、まったく別のところで生きてきました」
という、ほとんど無縁の存在でした。
鎌田さんは医学部を卒業したあと、“都落ち”をするように長野県の病院に赴任し、医療現場で奮闘する日々を送ります。いっぽう池田さんは東京在住のドイツ語翻訳者となり、地方とも医療とも縁のない生活を過ごしてきました。
そんな2人の人生が、60歳を目前にして、クロスします。
鎌田さんの『それでもやっぱりがんばらない』の上梓をきっかけに対談することになり、40年ぶりに再会しました。
その後、NHKラジオの対談などで語り合ってみると、かつて無縁だった2人が、いま同じようなことを考え、同じような行動をとっていることに気づきます。
鎌田さんは、ベラルーシやイラクの子どもたちのために医療奉仕を続け、池田さんは、「100人の村」出版をきっかけにして、講演活動や街頭演説を通じて平和を訴える行動を起こしている。
奇遇な再会に驚きながら、2人は〈いのち〉と〈平和〉を考える往復書簡を交わすことを決めました。2005年10月から2007年の5月まで、約2年間の往復書簡をまとめたのが本書です。
鎌田くんと呼ぶべきか、それとも鎌田さんと呼んだほうがよいか、などと往復書簡は他人行儀にはじまりました。
高校時代の池田さんがいつも伏し目がちな聖書研究会のクラブ員だったのに対し、鎌田さんは山岳部員でいつも汚い格好をしていたことが回想されます。
いかにもムサい鎌田さんに対し、スマートな池田さん。
現在も対照的な2人の姿を、鎌田さんは次のように指摘しています。
池田は今ある制度や体制も厳しく批判する。池田香代子は黙って
いられない。正義感のカタマリだから。
カマタの話は、もともと聞いてくれる人の心の中にあるものを
言葉にするだけ。みな、自分と同じと思ってくれる。
池田は世界のあり方や日本のタカチに触れる。
カマタは触れない。一人ひとりの心のあり方にこだわるだけ。
池田は大きな川の流れに抗っている。
カマタはボーッと流れに身をまかす、みんなと一緒に流されている。
そんな2人の往復書簡が、途中で途絶えた時期がありました。池田さんが「うつ」状態になってしまい、手紙を書けない日々が続いたからです。特に、ある講演会で「池田さんはエリートですね」と言われたことが心の重荷になってしまいました。
久しぶりにとどいた手紙を読んだ鎌田さんは、すかさず返信しました。
池田さんが早くにお父さんを亡くしたこと、しかもお父さんの死因が自殺だったことによって、経済的にも精神的にも苦労したこと。鎌田さんも生みの親に放り出されて、大学へ行くのに親を説得しなければいけないような生活環境だったこと。
自分たちは、絶対にエリートじゃない。
でも、そんな苦労は他の人には分からないから、誤解されることもある。
医者として、友人として、鎌田さんは
「心のかぜは無理をしないこと。がんばらないこと。
でも、休みすぎないことも大事なのです」
と励ましました。
いかにもムサい鎌田さんのはずが、なんだか格好いいじゃありませんか。
社会のために何か行動を起こすこと。
一方で、身近な人に心から寄り添うこと。
たいせつな2つ行動のみほんを目の前で見せてもらい、ますます鎌田先生のファンになりました。