著者:鎌田 實 出版社:集英社 2010年11月刊 \1,000(税込) 271P
今日は大好きな鎌田先生の最新刊を取りあげる。
お医者さんの世界に「行動変容」という考え方があるそうだ。
糖尿病、高血圧、高尿酸血症など、ふだんの生活習慣が原因のひとつになっている病気がある。食生活の習慣や運動不足を改善すればいいのだが、長年つちかってきた習慣は簡単には変えられない。
「わかっちゃいるけど、やめられない」のだ。
このような生活習慣病の改善などに使われるのが「行動変容」。なるべく億劫にならない、ちょっとしたことから行動を変えていき、やがて大きな改善に結びつけるプログラムだ。
この行動変容の発想を応用すれば、思ったより簡単に人は変わることができる。今、この瞬間から変われる、というのが本書のテーマだ。
専門家の精神科医の解説によれば、行動変容の考えかたは鎌田先生の著書『がんばらない』や『あきらめない』に通じるところがある、という。
「通じるところがある」だけではない。もっと進めて、「(対処できないストレスは)対処することをあきらめて、ほかに楽しいことを考えるなど、意識を転換することが大事」とまで言っている。
『あきらめない』の上をいく、「あきらめてもいい」という考え方だ。
がんばっても仕方のないことは、あきらめてムダな努力をしない。
その代わり、簡単に変えられることをはじめてみる。
変えよう、変わろうという気持ちを持ちつづける。
そうすれば、あなたの中で眠っていた力が目を覚ます。
秘められた力が、ぐいぐい引っ張り出される。
やがて、人生が大きく変わったことに気づくときがくる。
――これが鎌田さんの持論だ。
変わりたい、変わろうと思っている人の背中を押すために、本書にはたくさんの実例が載っている。
鎌田さんの本業である医療関係者はもちろん、講演で訪れた高校で聞いた教師の実践活動、『雪とパイナップル』という鎌田さんの著書を読んだ少年からの手紙のほか、嫌なことからヒョイと逃げてしまうオヒョイこと藤村俊二さんや、女性初のエベレスト登頂者田部井淳子さん、「運が悪くても変われる」と断言するたかの友梨さんなどの有名人の体験も紹介している。
きわめつきは、やはり鎌田さん自身の体験だ。
高校3年の夏、大学へ行きたいと希望した鎌田さんだったが、ウチは貧乏なんだから卒業したら働け、と父親に拒否された。
自分の想いに反対され、18歳の鎌田青年は父親の首に手をかけたという。
このときの様子を鎌田さんは、
「父が泣きだした。ぼくの手はゆるんだ。カンイッパツ」
と書いている。
東京オリンピックが終わったといっても、まだまだ貧乏な家が多かった時代だ。
自分の希望が通らないやり場のない怒りは、危うく鎌田青年を殺人犯にしてしまうところだった。
「この一瞬が、ぼくの生き方を変えた」と鎌田さんは続けている。
鎌田さんは、貧乏から脱出するために早く起きるようになった。
貧乏から脱出するために受験勉強しないといけない。とはいえ、映画もたくさん見たいし、友達とのつき合いもある。欲ばりな高校生活を送るために、鎌田さんは早朝4時半に起きはじめた。
努力のかいあって東京医科歯科大学医学部に合格して医師の道をあゆみはじめるのだが、早起きはその後もずーっと続けている。
生活習慣が変わったことによって、行動パターンが変わっていった。「短気でムラっ気だったぼくの性格が、少しずつ気長になっていった」
ふつうの人は「性格」は変わらないと思っているが、実はちがう。「性格」は環境によってできあがっていくものだから、今から変えることもできる。
ただし、「性格を変えよう!」とムキになってはいけない。生活習慣という行動パターンを、意識してちょっとだけ変えていけばいいのだ。
鎌田さんは、次のことばで本書を結んでいる。
人は変われる。きっと。
変わる必要が起これば、人は変われるのだ。