だいじょうぶ


著者:鎌田實・水谷修  出版社:日本評論社  2009年3月刊  \1,260(税込)  193P


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社会活動家として著名な2人の往復書簡と対談が収められた“世直し”本です。


鎌田實さんは、1948年、東京生まれのお医者さん。長野県の諏訪中央病院で、地域と一体となった医療、患者の心のケアに心をくだく医療を実践し、最近は海外の医療支援にも尽力しています。


水谷修さんは、1956年、神奈川県生まれの、元夜間高校教師。子どもたちの非行防止や薬物汚染の拡大防止のために「夜回り」と呼ばれる深夜パトロールを行い、メールや電話による相談や、講演活動で全国を駆け回っています。


お2人の真剣さと優しさに胸を打たれ、私の書評でも、ぜんぶで8冊を取り上げています。(本文の末尾に一覧を書いておきました)
ともにヒゲ面というふたりには、もうひとつ、生みの親と別れて育った、という共通点があり、子どもたちや若者に優しい目を向ける原体験になっています。


100年に一度という経済危機のなか、もっと優しい国をつくるにはどうすればいいのか。
「ちょっと大変だけどなんとかなるさ、だいじょうぶ、だいじょうぶ」と言えるような国にするためにどうしたらいいのか。


イラクの難民キャンプで鎌田先生が書いた手紙が、博多で夜回りをする水谷先生の元に届き、往復書簡がスタートしました。


私はお二人にお会いしたことはありませんが、夜回り先生の講演会に参加したという知人から、講演会の様子を教えてもらったことがあります。


多くの若者が参加していたという、その講演会で、「知りあいの中に、薬物に手を出した人がいたら手をあげてください」と水谷先生が呼びかけたところ、驚くほど多くの手があがったそうです。


水谷先生は本書の中で次のような具体的数字を示しています。

  日本の10代の半数は身近に薬物について見聞きし、25%は誘われ、
  2.6%は使うだろうといわれていますね。根底にあるのは、心の病、
  社会の病、国の病なんです。幸せな子どもはクスりは使いません。


4人に1人が誘われるほど、身近に薬物の誘惑が迫っていることを始めて知りました。


こんな社会にしてしまった根源は何か。


本書で2人が怒りをぶつけているのは、経済面の失政です。


鎌田先生は、貧富の差が拡大して中流を崩壊させてしまった国づくりが納得できません。国民皆年金制度も医療保険制度も、「中流」がしっかりしていなければ守れない制度なのですから。


水谷先生も、バブル経済崩壊後の長い不況が「いじめ」が大きな問題になった原因の一つと指摘します。


戦後の混乱期から高度成長の時代まで、日本のあちこちに貧困は残っていました。岡林信康が「チューリップのアップリケ」という曲で、
  「みんな貧乏が みんな貧乏が悪いんや」
と歌ったのは、40年前のことです。


しかし、貧しかったとしても、このころの日本人の心は壊れていませんでした。


水谷先生の考えでは、携帯電話やゲーム機、インターネットが急速に普及し、子どもたちがどっぷりと浸かっているこの十数年の環境が心の病を生む一因になっているのです。


2人が教えてくれる社会の暗い一面を知れば知るほど、やりきれない思いにかられます。


しかし、2人は決してあきらめていません。


パンドラの箱の底に“希望”が残っていたように、最後に鎌田先生が、希望のことばを口にしました。


  引きこもりも、自殺も、暴力も連鎖をするけど、あたたかさも連鎖を間違い
  なく起こします。だから、一人ひとりがもっと自分に自信を持って、あたた
  かな行動をすることが大切です。あたたかな連鎖を信じて。

今まで取り上げたお2人の著作


□ 鎌田實著
 ちょい太でだいじょうぶ http://d.hatena.ne.jp/pyon3/20070404
 超ホスピタリティ    http://d.hatena.ne.jp/pyon3/20070712
 トットちゃんとカマタ先生のずっとやくそく http://d.hatena.ne.jp/pyon3/20070902
 幸せさがし       http://d.hatena.ne.jp/pyon3/20071223
 黙っていられない    http://d.hatena.ne.jp/pyon3/20080204
 雪とパイナップル    http://d.hatena.ne.jp/pyon3/20080919


水谷修
 夜回り先生       http://d.hatena.ne.jp/pyon3/20050512
 夜回り先生のねがい   http://d.hatena.ne.jp/pyon3/20070521