人生の教科書[人間関係]


著者:藤原 和博  出版社:筑摩書房(ちくま文庫)  2007年4月刊  \609(税込)  190P


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先週土曜日の夜のニュースで、公立中学校で塾とタイアップした「夜スペ」(夜スペシャル)を開始した、というニュースを各局が取りあげていました。「塾と学校は違う!」「いや、もっとやれ!」等、“有識者”も街頭インタビューも意見が分かれていましたが、マスコミの注目を集めたことは間違いありません。
この「夜スペ」を発案して実現にこぎつけたのが、今日の一冊の著者、藤原和博さんです。藤原さんは、民間人初の公立中学校長として話題をよび、その後も赴任先の杉並区立和田中学校で「地域本部」という学校支援組織を立ち上げたり、「よのなか科」をはじめたりと、独自の活動をつづけておられます。


本書は、2002年に出版された『対人関係』をもとに、その後和田中の校長になってからの活動などを加筆訂正して2007年に文庫化したものです。(加筆“修正”ではなく“訂正”というからには、単なる誤字・脱字の訂正 ではなく、自身の考えの“訂正”もあったのかもしれません)


本書を「教科書」と名づけたのは2つの意味からです。
ひとつ目は、まず基本を押さえるための初めの一冊だということ。
もう一つは、藤原さんが人間関係の先生として、生徒(読者)に教えるための教材だということです。


たしかに藤原さんは、本書にも書かれているとおり、今までに5千人以上の人と出会っています。それも、名刺を交換した程度ではなく、根ほり葉ほり相手のことを聞き出したことのある人を数えた数です。これだけの経験に裏打ちされていれば、「先生」の域を超えて「達人」に到達しているでしょう。
その達人の力量からすれば、「人間関係のコンサルタント」でも、「人間関係のエバンジェリスト」でも、「人間関係のセラピスト」でも、なんなら、「人間関係の家元」でも、何でも名乗れる力はあるのですが、教育をライフワークと定めた藤原さんは、人間関係の「先生」を選びました。
「家元」なら、「人間関係は、家元のやることをよ〜く見て、ワザを盗みなさい」と言うところですが、藤原さんは「先生」ですので、本書のトーンは「だいじょうぶ、基礎から教えてあげます」という姿勢に貫かれています。


藤原先生の親切さは、目次をみればわかります。
本書の目次には、「人間関係をどうすれば深められるのか」「『聴き上手』にどうすればなれるか」「会話を盛り上げるコツって?」など、読者が質問しそうな項目がならんでいるのです。


本文もやさしいですよ。
たとえば、「『聴き上手』にどうすればなれるか」という質問に、次のように答えてくれます。

  (聴き上手な人は)才能やキャラに負うところもないとはいわない。
  でも、そんなものは、せいぜい数歩のリードですから追いつくことは
  できます。
   では、まず、形から入ってみてください。
   大きくうなずくんです。
   これだけで、話し手はしゃべりやすくなります。(中略)
   難しくいえば、非言語コミュニケーションってやつです。表情や姿勢、
  声の調子など、言葉でいったり書いたりできない部分で、エネルギーを
  フィードバックしている。


読者のにがて意識を忘れさせ、「大きくうなずく」なんていう簡単なことから聴き上手への第一歩を教えてくれる。しかも、そのあと、ちょっと難しい理論的背景も忘れない。


さすが〜、藤原先生。


そのほか、具体的に背中を押してくれるこんなアドバイスが山ほど載ってます。
個々の内容は読んでのお楽しみとして、私が印象に残ったのは、藤原さんの1日の過ごし方です。


藤原さんは1日を3つに分けて、それぞれの時間にメリハリをつけて過ごしておられます。


まず、朝から校務修了までの昼間の時間帯。
この時間は「生徒や先生と向き合う」と決めて、それ以外のことを極力排除します。ですからメールは全く見ないし、ケータイも使いません。校長に求められる一般的なことも、どんどん余分なものを省いていき、教育委員会からの書類でも必要ないと思われるものは提出しません。
クレーム電話にも付き合わない。
保護者からの度を超えた要求にも耳を貸さない。
もちろん、業者の接待も受けない。


スパッと割り切ってます。カッコイイ!


2番目の時間帯は、仕事とは直接関係のない友人関係を優先する時間帯。
仕事上の会食は朝食か昼食ですませるようにし、この友人たちとの会食を夕食にもってきます。それも、二次会・三次会とずるずる付きあわない。


そして夜10時からが、3つ目の「関係をメンテナンスする時間」です。
パソコンに20〜30通(スパムメールを合わせると数十通以上)来ているメールに目を通し、きちんと丁寧にお答えする。
1時間で済めば、12時まで1時間本を読むこともあるそうです。


人間関係が学べて、藤原さんの幸福感、人生観、もひとつ1日3分割法まで教えてもらえる本。


オトクです!